
――これからの時代をにらみ、子どもの食育の問題にも長らく取り組んでおられますね。
「KIDS(キッズ)―シェフ」という子ども向けの食育活動に取り組むようになって、間もなく20年になります。全国各地の小学校を回りながら、授業の一環として味覚について教えています。北海道の増毛町で生まれましたが、両親は半農半漁で生計を立てていました。サンマのはらわたやホヤ貝などを口にして、僕の味覚は培われてきたと思っています。
味覚を感じる舌の味蕾(みらい)が育まれるのは12歳ごろまで、という専門家の話を聞いて、これは急がないと、と思ったからです。核家族や共働き家庭も増え、「個食」や「孤食」という言葉まで今や誕生する時代です。朝食抜きで学校に行く子どもの存在を耳にしますが、そんなことでは遊ぶ元気や学ぶ気力など湧くはずがありません。
――従来のガイド本に加え、飲食店に関する様々な口コミ情報がネットの世界にあふれています。これからの外食産業についてはどうお考えですか。
有名ガイド本に掲載されたことで「予約が取れない店」に変わってしまう飲食店が実際にありますが、それはプライべート店ならまだしも、普通のお店としては健全でないと思っています。店本位ではなく、あくまでお客さま本位でやっていかないと店として長続きしないのではないでしょうか。
2020年にオテル・ドゥ・ミクニは開業35年を迎えます。その間、ミシュランガイドの星付きレストランに一度もなったことがありません。それでもわざわざ予約して僕の店に来てくれるお客さまがいる。実にありがたい話だと思っています。確かにミーハー感覚でお店選びをする傾向もあるでしょう。でも長年、店をやっていると、お客さま自身も自分なりの物差しを持ち、それに基づき行きたい店を決めている方が以前より一段と増えてきた気がします。
一方、店側も話題にならないと、と意気込み、奇をてらい過ぎる傾向に陥りがちです。やれ料理に泡を使ったり、食材に土やアリを用いたり。いっときブームになっても、長くは続きません。はやりはいずれ廃れるからです。