2019/12/30

ただし手取り額では別。年金額が増えると税金や社会保険料の負担も増す。もとの年金額がかなり低い人を除き、増え方は小さくなりやすい。この結果、手取りベースの損益分岐の時期は額面ベースより3~5年ほど延びることも多い。

2つ目の視点は「年金版の家族手当」ともいえる加給年金についてだ。夫が65歳になり年下の妻がいると一定条件下で年40万円弱が上乗せ支給される。この加給年金は厚生年金とセットなので厚生年金を繰り下げると消えてしまう。維持したければ基礎年金だけ繰り下げるのも手だ。

3つ目は在職老齢年金制度との関係だ。シニアで働きながら年金を受給する場合、収入が多いと厚生年金が削られる。この削られた分は、繰り下げ増額の対象にならない。

長寿リスクに備え

65歳以上で同制度の対象者は現在、受給者の1.5%にとどまる。収入が多くなければ通常あまり気にしないでいいが、対象者は繰り下げ効果が薄れることを知って判断したい。

4つ目は年金事務所への事前相談の重要性。繰り下げの注意点は他にも多く、夫の死後に払われる遺族厚生年金などとの関係は極めて複雑。繰り下げを決める前に年金事務所に行き、自分の場合はどう考えればいいのかを必ず聞くべきだ。

それでも様々な損得を考えて判断に迷うことも多い。そこで5つ目の視点が最も重要になる。迷った場合、年金は「長生きリスクに備える保険」であるという本質に立ち返ることだ。

例えば1960年生まれの人は男性の38%、女性の64%が90歳まで生きる(図B)。女性の17%は100歳までだ。しかも今後、長寿化はさらに進む。繰り下げの損益分岐は手取りベースでは80代後半とか90歳前後になることもあるが、それまで生きる確率はそれなりに高い。保険としての機能を重視し、繰り下げで長生きに備えるのは重要な選択肢だ。

6番目は手続きについて。繰り下げは最初に「70歳からもらう」などと決める必要はない。65歳を過ぎても、自分で手続きをしなければ開始時期は自動的に遅れていく。資金に余裕があるうちはこの「自動繰り下げ」状態にしておき、もし資金が必要になればその時点で請求すればいい。