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画家は微生物 どう描いたの?小さな世界の驚きアート

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ナショナルジオグラフィック日本版

人と微生物との関係はずっと複雑なままだ。微生物を、病気の原因となる「病原菌」として恐れながら、その一方で発酵食品の生産に活用している。「微生物学の父」として知られるアントニ・ファン・レーウェンフック(1632~1723年)が、顕微鏡で微生物を初めて観察したのは1670年代のことだ。しかし、研究室で簡単に培養できるようになるまでには、数百年を要した。

「微生物アート」は、その微生物の培養を利用した芸術だ。研究室で広く使われる培地をキャンバスにして微生物を培養し、線や絵、最近ではオブジェまで作り出す。

米国微生物学会(ASM)は、2015年から微生物アート・コンテストを主催している。今年は「プロ」(研究者が対象)、「制作者」(研究者ではない一般の人)、「キッズ」(子供)の3部門に、合計347作品の応募があった。応募者は作製した微生物アートの写真を提出し、ASM職員がカテゴリーごとに作品を審査。さらに一般の人たちによるソーシャルメディア上での投票で決める一般投票賞も設けられた。

2019年の受賞者は、2019年11月20日に発表された。プロ部門の最優秀賞は米オークランド大学のアルワ・ハディド氏の鯉とハスの花を描いた作品で、制作者部門はコーリー・アブラム氏の微生物による自画像、キッズ部門はケイト・リン氏の世界のつながりを表す「生命の輪」、一般投票賞はSYNLABハンガリーに勤務するジータ・ペシュティーニ氏の「ハンガリーの民芸」が獲得した。

培地に寒天を見つけるまでの道のり

微生物学者は当初、ジャガイモから凝固させた卵白や肉にいたるまで、さまざまな食品を用いて微生物を培養した。細菌と病気を関連づけた一連の原理で知られるロベルト・コッホ(1843~1910年)は、固体で透明、かつ殺菌できるものを使って細菌の培養法を改良したいと考えていた。当初はゼラチンが適していると思われたが、問題があった。微生物の培養によく用いられる温度である37℃で、液化してしまうからだ。

ドイツのコッホの研究室で助手兼イラストレーターを務めていたアンジェリーナ・ヘッセ(1850~1934年)は、ゼリーやプリンに使われる材料が、より良い培地になることを発見した。これが海藻から分離したゼラチン状の物質、つまり寒天だった。

こうしてコッホは、病原となる結核菌「Mycobacterium tuberculosis」を培養するのに、最終的に寒天にたどり着いた。残念ながら、アンジェリーナが称賛されることはなかったが、この発見は、微生物の培養法に革命をもたらしたのである。

培養に使う寒天培地(寒天平板培地)の作り方を説明しよう。まず寒天粉末に栄養分と水を混ぜ、高圧下で加熱して殺菌し、シャーレに注ぐ。これを冷却すると固化し、半固体状の滑らかな表面になり、それまで使われていた食品を用いた培地より微生物の培養に適していた。

科学者は、多様な微生物のニーズに合わせ、さまざまな寒天培地を作製してきた。おかげで、さまざまな色の微生物を培養できる、斬新なキャンバスとなった。ペニシリンを発見した科学者アレクサンダー・フレミング(1881~1955年)は、微生物アートをいち早く試した1人だった。だが、微生物アートは、何十年も注目されなかった。

芸術と科学の出会い

ASMの微生物アート・コンテストは、ソーシャルメディアの「今日の写真」シリーズから生まれた。ASM職員が着想を得たのは、ロシツァ・タシュコワ氏の微生物アートの画像が、急激に拡散した2014年12月のこと。翌15年の夏には第1回微生物アート・コンテストが設立されたのだ。

「職員を巻き込んで、科学者の創造性を示せる面白いことをしようというアイデアでした」と話すのは、ASMの啓発マネージャーを務めるキャサリン・ロントク氏だ。第1回のコンテストに集まった作品は84件。それから、短い期間で、コンテスト自体が進化している。

「応募者が、毎年どんどんのめり込んでいっているのは確かですね。立体的な作品が応募されたり、胞子を使ったり、使われる微生物の種類も増えています」と同氏は話す。2018年のコンテストでは、テーマが自然界から抽象的なものまで多岐にわたり、フィンセント・ファン・ゴッホの「星月夜」の模写もあった。

微生物で色を出す

微生物アートには、他の芸術と同様、プランが必要だ。アイデア、構図、微生物を置く素材、色を決めなければならない。そして、微生物アートの場合、長い待ち時間という忍耐も求められる。微生物で寒天に絵を描いても、すぐに人の目に見えるわけではない。数日後、寒天上で微生物が増殖し、色が出てはじめて、作品が姿を現す。

色の出方も様々だ。例えば、抗生物質の生成でも知られるストレプトマイセス属の菌の場合、アルカリ性では青緑色、酸性では赤色の色素を出す。大腸菌(Escherichia coli)はベージュに発色する。裏庭で少し探せば、様々な色を出す微生物が見つかるはずだ。ある応募者は、裏庭で土を採集し、希釈して寒天培地に塗り何が育つかを確認した。一定期間増殖させると、寒天培地は、微生物アートの制作に使える色のパレットになった。こうして描かれたのが、紫と黄色のチョウだ。

微生物の遺伝子を操作して、明るいピンク、緑、青の蛍光を発するようにした作品もあった。今年であれば、土壌微生物の一種の枯草菌(Bacillus subtilis)で作られた蛍光色に光る木もあった。緑や赤の蛍光タンパク質の遺伝子を導入することで、元々はベージュに発色する枯草菌の色を変えたのだ。

米プリンストン大学のジェイニー・キム氏は、自然の微生物と改変した微生物の両方を組み合わせ、微生物やカイメン、イカ、魚、藻類の共生を表す「海の宇宙」を制作した。微生物の1種は、青色になるよう改変した研究室の菌株から取ったもので、使用した黄色と白の微生物は、自身の皮膚から採取した。緑は、異なる微生物種を混ぜて作った。

「この2種の細菌は、共存でき、アートを作り出しているのです。まるで、海の共生関係そのもののようです」と同氏は話す。

寒天に微生物で絵を描くには、つまようじや細菌接種用ループのほか、複雑な装置を使うこともある。2017年のコンテスト優勝者は、液体滴下ロボットを用いて、寒天の培地に酵母培養液のナノサイズの液滴で「印刷」し、海上の夕焼けを描いた。この手法では、各液滴が別々の酵母コロニーを作る。作者たちは、ジョルジュ・スーラに代表される画家たちが1880年代に開発した点描画法にちなみ、この手法を「バイオ点描画法」と名付けた。

微生物は私たちの周りに必ずいるのだが、肉眼では見えない存在だ。微生物アートは、見えない微生物を可視化する。微生物が出す色と作者の想像力だけが、見えない世界を顕在化するのだ。現在、微生物アートはデンマークの美術カリキュラムにも組み込まれ、2019年の国連総会のイベントで取り上げられるようになっている。作品を発表する人も増え、ASMの微生物アート・コンテストに刺激を受けて、世界各地で同様のコンテストが開催されるようになっている。

ロントク氏は「微生物アートは素晴らしい啓発ツールになりました」と誇らしげに語る。長い間、見過ごされてきた微生物学の「美しさと多様性」という側面を示しているからだ。

次ページでも、コンテストで選ばれた作品7点をご覧いただく。どうやって描いたものかを想像しながら見るのも楽しいだろう。

(文 JENNIFER TSANG、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2019年11月25日付け記事を再構成]

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