日経エンタテインメント!

糸曽監督は「1番は、『根性がある』ということじゃないですか?」と話す。

「『コルボッコロ』では、多い時は何テイク録ったか分からないぐらい、リテイクを出したんです。でも絶対に『やめたい』と言わずにやり続けてくれました。諦めないことは、女優業だけなく、すべてにおいて大事だと思うんです。しかもリテイクするたびに言い方を換えてくる。手探りながらも、食らいつこうとするんですよね。その負けず嫌いな感じが、『コルボッコロ』の鈴という役にも合っていたと思います。

今回は20人くらい入れるブースに、1人で入ってもらって収録したんです。防音なので、中は完全に無音。孤独で、ずっといると怖いはずなんですよ。その中で延々台本を持って、真摯に向き合ってくれた。しかも僕が1つひとつのセリフにこだわったので、時間が予定よりオーバーしてしまったんですよ。昼から深夜までかかったのに、彼女は『最後までやりたい』とギリギリまで応えてくれました」(糸曽監督)

「負けたくない」と思った

(写真:佐賀章広)

両氏が挙げるのは、「奥行き感」だ。鈴間氏は「本当は何を考えてるのかつかめない(笑)。華はあるんですけど、陰か陽かで言うと、陰なんですよね。でもジメッとはしていなくて。そこが独特の魅力になっている」。糸曽監督は「彼女と話している時、もし仮に、この姿や話している内容がすべてウソだったら…と一瞬、思ったんです。裏にはどんな本質があるんだろうと、想像力を掻き立てられました」。

西野自身は、これらの証言について、どのように感じるのだろうか。また、自身で感じる、女優としての武器とは?

「根性は…あると思います。自分ではそんな自覚はなかったけど、『芯が強い』とも言われます。あと、『陰がある』も言われますね。自分もどちらかというと、そういう人が好き。ずっと明るい人もうらやましいですけど、私はなれない(笑)。うーん、そこまでなりたいとも思ってないのかも(笑)。

自分の強みは分からないけど、自己分析すると、真面目だとは思います。まじめって良いことのほうが多いんですけど、たまに真面目すぎて、自分でしんどくなる時がある。

あとはやっぱり、負けず嫌い。もともと勝負事なんてどうでもいいと思っていて、あまり『悔しい』と思ったことはなかったんです。それが乃木坂46に入ってから、『自分は、こんなに悔しがれるんだ』と知りました。いろんな場面で何回も思ってきましたね、『悔しい』って…」

「明るくなった」というこの1年でも、悔しいと思ったり、涙を流したりしたことはあるのだろうか。

「ありますね。『あな番』の最中も、不安すぎて、家で1人で泣いたりしてました。周りの役者さんが、すごいじゃないですか。テレビや映画で見ていた人ばっかり。そんななかで、自分が黒幕の役をやっていいのか、プレッシャーに押しつぶされそうになって。特に後半、視聴率が上がっていった時は、『このまま最終回を迎えずに終わってくれないかな』と考えたりもしました。

だけど、乗り越えようと決めていたのに、それをできないっていうのが、一番嫌だったんです。『絶対、負けたくない』と思って、なんとか持ち直してって感じで…。でも、ずっとタフではいられなかったですね。

女優さんって、心身ともにタフなイメージがあるんです。私は『あな番』を乗り越えたことで、少しはタフになれたんじゃないかと思います。上を見ればきりがないと思うけど、いける限りは上を目指して、強くなっていきたいです」

(ライター 泊貴洋)

[日経エンタテインメント! 2019年12月号の記事を再構成]