60代も後半になって、お酒のおいしさを覚えてしまいました。夫は飲まないので、夜一人で氷の音を聞きながら、若い人の音楽とともにいろいろ考えるのが至福の時です。このままだと、不良のおばあさんになりそうで心配です。(埼玉県・60代・女性)
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「悩むことはありません、ステキじゃないですか」という答えを、あなたは求めておられますね。そのことが透けて見え過ぎです。
60代後半にもなって、こんな自己認識であることこそ問題ではないかと、思いました。
毎晩あびるほど飲んで翌朝起きられないとか、ご主人がお酒を飲む妻をイヤがり夫婦仲が悪くなりそうだとか、健康を害するほどのアルコール依存になったというなら大変ですが、そのようなことはありませんよね。
つまりあなたは、自分に何か問題があるとは思っておられないと感じます。
あなたが毎夜お酒を飲んでも、誰の迷惑にもなっていないようですし、それなら黙ってそのようになさっていたらいいじゃないですか。
ここはお悩み相談のページですが、これは相談というよりも「私ってステキでしょ」という自己主張に近いと感じました。
若い人なら、そういう未熟な自己主張があってもかわいらしいですが、もう60代後半なら、いささか恥ずかしいと思います。黙っていればステキなのに、この主張をした途端、あなたはステキじゃなくなりました。
年を重ねるということは、自分を知るということではないかと、私は思っています。
自分の心の奥底を認識することによって、人間に対する理解も深くなり、周りの人間の気持ちがわかるようになり、思いやりを持てるようになる。風貌は衰えますし、記憶力も集中力も体力も衰えますが、そこだけは冴(さ)えてくる。それが年配の人間のステキなところなのではないでしょうか。
でもこの質問には、自己分析も自己認識も感じられません。
私は「若い人の音楽」を理解するセンスを持つ人間で、グラス片手に、毎夜至福の時を過ごしているんですよ、という自分自慢が、周りをしらけさせることくらい認識なさった方がよいと思いました。
そしてなぜ、そのように自己主張をしないといられないのかを、考えてみた方がいいと思います。何に不満なのか? 何が満たされないからこういう自慢をしたくなるのか? それこそが自己分析の第一歩だからです。
そして、静かにご自分の時間を楽しんでください。
[NIKKEIプラス1 2019年12月28日付]
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