灘の畳が映す「柔道の父」の教え グローバル人材育む灘中学・高校(中) 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

「精力善用」「自他共栄」の書は嘉納治五郎の直筆
「精力善用」「自他共栄」の書は嘉納治五郎の直筆
全国トップクラスの進学校、灘中学校・高等学校(神戸市)。一般のイメージは「学業」かもしれないが、生徒のほぼ3人に1人が柔道の黒帯をとって卒業するという意外な一面もある。というのも1927年の創立に際し、「柔道の父」とされ、教育者としても知られる嘉納治五郎を顧問に迎えた歴史があるからだ。その教えは、今にどう生きているのか。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が探った。

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偉大なる柔道家が開いた学校

灘の柔道場には2つの大きな書が掲げられている。「精力善用」「自他共栄」。講道館の創始者で、近代柔道の父として世界中にその名を知られる嘉納治五郎そのひとによるものだ。

嘉納治五郎は偉大なる柔道家であるだけでなく、偉大なる教育者でもあった。1893年から23年半もの間、東京高等師範学校(現在の筑波大学)の校長を務め、教員養成という側面から日本の中等教育を育ててきた人物であり、その比較的晩年において灘を建学したのである。

嘉納治五郎は当代きっての国際人でもあった

「精力善用」「自他共栄」は治五郎が柔道修行のなかで見出した信念であり、それをそのまま灘の校是とした。「精力善用」はもてる力を最大限に出し切る姿勢。「自他共栄」は助け合い譲り合う精神を意味している。

治五郎は、アジア人として初めての国際オリンピック委員会のメンバーとして世界を飛び回り、1940年の「幻の東京オリンピック」の誘致に成功した立役者でもある。そのことは大河ドラマ「いだてん」に詳しい。当時から一流の国際人であったのだ。

和田孫博校長は「嘉納先生こそ、真のグローバル人材のロールモデルである」と言う。自分が所属する世界では経験しないような未知なる課題に直面したときにも、おじけづくことなく対処し、粘り強く解決する力こそ、本当の意味での「グローバルな力」だというのだ。その強靱(きょうじん)な「グローバルな力」の源が、「精力善用」「自他共栄」の信念なのである。

意外に和やかな柔道の授業

治五郎の学校である灘では、当然のことながら柔道を学ぶのが創立以来の伝統だ。現在でも中1から高1の4年間、週1回の柔道が必修となっている。

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