ハードな練習や試合を重ねてきた日本代表選手にとって、体を回復させるためにも重要なのが食事。1日7~8回行う食事などの栄養摂取において、どんなことを選手たちは意識してきたのか。日本代表のストレングス&コンディショニング(以下、S&C)コーチを務めた太田千尋さんに聞いた。
1日5000キロカロリーを摂取
――前々回記事「ラグビー日本代表 快挙支えたトレーニングの裏側」では、リカバリー(回復力)を高めるため、1日7~8回も食事などの栄養摂取を行うとおっしゃっていましたが、日本代表選手は1日どれくらいのカロリーを摂取していたのですか。
太田:ラグビーは練習がとにかくハードで筋肉にダメージを与えるスポーツなので、エネルギーとなる炭水化物と、筋肉を作るたんぱく質を中心に、だいたい5000キロカロリーほど摂取します。シーズン前に体脂肪率を測定し、数値が高い選手は栄養士が食事のチェックをします。そして、前回記事「ラグビー代表 コーチが明かす『疲れない体』の作り方」で紹介したデジタルシステム「ONE TAP SPORTS」を利用して、選手に日々の食事の写真をアップしてもらい、それに対して栄養士がコメントをしながら改善していきます。
合宿中の朝昼晩の3食は基本的にビュッフェ形式で、事前に食材やメニュー構成、調理法などをホテルに伝え、提案してもらった献立をさらに選手が食べやすい形に調整してもらいます。外国人選手はオートミールを結構食べるなど、選手が育った環境や国の文化も意識します。

そのほか、練習前後や就寝前などに摂取する補食を、1日4~5回程度とります。ハードな練習をして、3回の食事で必要なカロリーをすべてとることは難しい。練習前後の補食やプロテインなどで栄養摂取の回数を増やし、トータルの摂取エネルギー量やたんぱく質の量が減らないようにすることが大切なので、おのずとこれくらいの回数が必要になるのです。
補食はグラウンドのそばに、一口で食べやすい小さめのおにぎりやサツマイモといった炭水化物、プロテインなどのたんぱく質を並べて、練習前後にすぐ摂取しやすいようにしています。ミルクプロテインや栄養補給ゼリー、水、スポーツドリンクを入れたクーラーボックスも常備しています。試合会場でも、プロテインやドライフルーツなどを栄養士らが用意し、やはりすぐ栄養補給ができる環境を作るように意識しています。
ちなみにプロテインは、体重によって摂取量が異なり、練習内容や組み合わせ、強度、個々の目的によって摂取方法も異なります。選手の体重とプロテインの種類に応じて、おのおのが最適なたんぱく質の量が確保できるような目安を栄養士の方に一覧表にして掲示してもらい、それを参考に選手が現状に合ったプロテインを選んで作ります。
――試合後のロッカールームにピザが並んでいた映像を見ました。

太田:試合後、かなりのダメージを受けていますから栄養補給は大事です。以前は手に取りやすいおにぎりやサンドイッチを並べていたのですが、試合が終わった後は汗をたっぷりかいているので、塩っ気があるものを食べたくなります。海外で試合した時に試しにピザを出してみたところ、一気になくなりまして、これはいいなと思いました。
栄養素だけを考えると、ローファットで炭水化物・たんぱく質を多く摂取するのがベストですが、おのずと味気ないものが多くなります。試合で疲労している選手はパサパサしたものや味気ないものだと食欲がわかないし、手に取らない選手もいる。そうすると栄養をとることができません。とらないことは0点ですが、栄養素としては100点満点ではなく50、60点だとしても、何か胃に入れることの方がリカバリーとしてのメリットがあります。それでピザやチキンウイングなど、食欲がわくものを並べて、栄養を摂取してもらうことを重視しています。