なぜメディアで女性の活躍進まない アジアの記者議論
新聞や番組が報じるニュースの多様性をどう高めるか――。アジア・オセアニア地域の女性記者が12月初め、東京都内で話し合った。参加者は様々な視点を持つ人が報道の現場に増えることが重要との認識で一致した。男性中心の職場風土からの脱却や長時間労働の見直しといった課題も浮上した。
3日間のイベントは内閣府の呼びかけで開かれた。池永肇恵・男女共同参画局長は開会にあたり「メディアが伝える内容には多様な視点が欠けているのではないか」と問題提起した。「女性記者が活躍することで発信する内容に多様性が生まれ、人々の意識にも大きな影響を及ぼすことができる」と12カ国・地域から集まった30人を超える参加者に呼びかけた。
確かに、ニュースの現場に女性は少ない。米国を拠点とする非政府組織(NGO)「国際女性メディア財団(IWMF)」が世界59カ国522社のニュース会社に実施した2011年の調査によると、フルタイムで働く女性記者の割合は33%だった。その後増えた可能性はあるが、半数にはなお程遠い。
中でもアジア・オセアニア地域の遅れが目立つ。IWMFのリポートは同地域のメディアで働く人について「男女比が4対1」と指摘する。女性が約半数を占める欧米と比べ、アジアでは女性の管理職が12.9%、記者職が27%と低い水準にとどまる。
メディアで女性の活躍が進みにくい理由として最も多く挙がったのが「時間的な制約」だ。最新のニュースを追うため、仕事が長時間に及ぶ局面がある。どの国でも子育てや親の介護など家族をケアする役割を女性が担うことが多く、仕事との両立を難しくしているようだ。
フィリピンの経済新聞社で働くカイ・オーディナリオさんは、親戚の子供の世話を頼まれたものの、「仕事を休めず、職場に連れて行ったことがある」という。「会社の仕組みと社会、どちらも変化しないと状況は改善しない」と2児を育てながら香港のテレビ局で働くニ・ギョウブンさんは指摘した。働き方改革は待ったなしの状況だ。
シンガポールはアジアでは例外的に女性記者が多く、マネジメント層の女性も珍しくない。ストレート・タイムズ紙のクエック・エン・ラン・オードリーさんもその1人で、国際担当の論説委員を務める。同紙の論説委員12人中、女性が8人という。
自身は子供3人を育てながら、国際政治や環境、社会問題などの取材を続けてきた。「会社のサポートに助けられた」と感謝する一方、「いくら優れた支援制度があっても、社会の常識が変わらないと意味がない」とも語った。家政婦を雇うのが一般的なのも女性活躍の一助になっている。
オードリーさんは最近、医療や科学のニュースに注目している。「研究者には男性が多く、結果がゆがんでいるのではないか。ニュースと性差が関わるところを深掘りしたい」。最近、シンガポール国立大学で女子学生へのセクハラを隠蔽する事件が起き、大きな話題を呼んだ。女性の編集者が増えれば、こうしたニュースがより大きく報じられる可能性も増えてくる。
参加者からは「女性だからという理由で、教育や健康といったテーマを割り振られることが多い」との意見も多く出た。政治や経済など「ハードニュース(硬派)」の記事にも女性の記者・編集者の視点が必要との見方で一致した。ライフイベントに影響を受けない確固たるキャリアを築くためにも、大学院での学び直しなど教育機会の拡充を求める意見も出た。
3日間のイベントの最終日、マレーシアから参加したアズリーン・ハニ・アブ・バカルさんは全員の前で「女性記者のネットワークが海を越えて広がれば、より大きなテーマを発信できるかもしれない」と興奮気味に訴えた。終了後には連絡先を交換する人々の輪が広がった。
イベントでモデレーターを務めた東京大学大学院の林香里教授は、デジタル化の波の中で部数や視聴率の引き上げに注力するメディアが増えており、「より良い社会を実現するというジャーナリストの目標が見失われがちだ」と指摘した。「女性であることを自覚して、社会の見えないところに光を当てるべきだ」と呼びかけた。
働き方改革、もっと幅広く ~取材を終えて~
読者や視聴者に色々な価値観を持つ人がいることを考えれば、当然ニュースを発信する側にも多様性が求められる。ニュース価値を判断する際も、本来なら様々な背景や考え方を持つ人による活発な議論が必要だ。アジア・オセアニア地域から集まった女性記者たちの認識は共通していた。
今回のイベントのテーマは性別が中心だったが、年齢や出身地、キャリア、未婚・既婚、子供の有無、性的指向などの違いによって世界の見え方は異なる。働き方改革を子育て支援にとどめずに幅広く進めつつ、異なる価値観を柔軟に取り入れられるニュースルームをつくっていかなくてはならないと感じた。
(平野麻理子)
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