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地球の生命、始まりは「2つの紐」 宇宙生物学が迫る

東京工業大学 地球生命研究所 藤島皓介(2)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物を通して、世界の不思議や課題にふれる人気コラム。2020年の年明け前後の「U22」に転載するシリーズは「宇宙生物学」がテーマ。地球と地球外の生命をともに考える地平からは平和へのメッセージが聞こえてきます。

◇  ◇  ◇

「生命の起源を研究したいという時に、『生命の起源学』というものがあればぼくはそこに行ったと思うんです。でも、生命の起源研究というのは、つまるところ宇宙生物学でした」

東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の藤島皓介さんは、ぱっと聞く限りには謎めいたことを言う。

けれど、前回、宇宙生物学の不思議な成り立ちについて少しでも思いを巡らした人なら、「生命の起源学」が、必然的に「宇宙生物学」につながっていくことが分かるだろう。生命を形作る分子の起源や、生命が生まれた場所などの議論は、少なくとも惑星科学のスケールの視野を持たざるをえないし、場合によっては、太陽系、銀河系、宇宙全体の物質進化、分子進化の話にまで一気につながってしまうのだから。

藤島さんの目からみた、宇宙生物学の総本山エイムズ研究センターの様子をまずは聞いてみよう。

「宇宙生物学、アストロバイオロジーという言葉が公式に使われるようになったのは、1995年、エイムズ研究センターだったと言われています。これからは宇宙生物学が大切で、エイムズ研究センターを拠点にすると当時のNASA長官のダニエル・ゴールディンが記者会見で宣言しました。それまでは地球外生命学、エクソバイオロジーと呼ばれていた研究分野が新しい枠組みで捉え直された格好です。NASAにしてみると、今後100年の取り組みを考えた時に、宇宙探査を続けていくとしたら、いつか生命探しが本流となるだろう、という判断でした。かりに太陽系内外で2例目の生命が見つかったとしたら、間違いなく今後100年、そこに探査機を送り続けることになるでしょうし、そういう戦略的な部分があったと思います」

とにかくここでは、宇宙生物学の「キックオフ」の瞬間には「第二の生命」探し、あるいは生命を育む可能性のある惑星探査が中心的な課題として意識されていたことを覚えておきたい。

そうすると、本連載の中ですでにお話をうかがっている田村元秀さん(すばる望遠鏡による観測で太陽系外の惑星を見つける)や、堀川大樹さん(クマムシ(極限環境に耐える生物)研究者としてエイムズ研究センターでの研究歴あり)だけでなく、NASAのジェット推進研究所(JPL)で火星探査のローバーを開発している小野雅裕さんや、日本の小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」にたずさわってきた岡田達明さんといった太陽系探査にかかわる人たちも、実はこの宇宙生物学の研究トレンドの上に乗っていたのがよく分かる。マーズ2020は、火星に存在したかもしれない(するかもしれない)生命の徴候を探るのが一大目標だし、はやぶさ2は、地球生命を形作るために必要なアミノ酸などの原材料物質の由来を解き明かすことが目的の一つに据えられている。

藤島さんが関心をいだいてきた「古細菌(アーキア)と生命の起源」「地球生命が共通して持つ仕組みであるセントラルドグマの起源」というのもまさに宇宙生物学が解明すべき課題のひとつだというのは明らかだ。

「僕を受け入れてくれたのはリン・ロスチャイルド博士で、極限環境微生物の研究を行う宇宙生物学者なのですが、これからは合成生物学が鍵になるから、あなたが古細菌の研究でやってきたようなことを、生命の起源と結びつけてさらに発展させたらおもしろいことになる。ぜひ一緒にやりましょうという風に言ってくださったんです。それで向こうにいる間に、そういう合成生物学と宇宙生物学のクロスオーバー研究の方向性を深めていきました」

合成生物学というのは、「生命を合成する」というふうにも読める、とても衝撃的な研究分野だ。そして、実際に原始的な生命を作ってしまうという系統の研究もされている。とにかく、現在の分子生物学が持っている手法を駆使して、「作ってみて調べる」のが合成生物学の方法の基本だ。

藤島さんがロスチャイルド研究室で試みたことというのは──

「地球生命に共通しているタンパク質を構成しているアミノ酸の種類は20種類あるけれど、その20種類すべてを最初は使ってなかったんじゃないかなという話をしたんですね。そしたらリンさんが、じゃあアミノ酸の種類を減らしたタンパク質を実際に合成生物学的に作ってみて、その機能を調べたら、初期のタンパク質の機能が予測できるんじゃないのかと。ああ、これだと思って。僕はこれまで古細菌の中にある祖先的と思われる分子の進化研究をやってきたけれど、その進化を巻き戻していって、共通祖先もさらに超えて初期にあり得た分子をデザインして合成して、その機能を調べていけばいい、と」

この時、藤島さんが強く印象付けられたのは、研究室の主催者が持っているテーマをトップダウンで割り振るような雰囲気ではなく、むしろ「あなたが持っているスキルは何ですかと、あなたがやりたいことは何ですかと真摯に聞いてくれる環境」だったという。もちろん、これは研究分野、研究室のカラーにもよるのだろうが、たしかに印象的なエピソードだ。

そして、藤島さんはその時にどんな「原始のタンパク質」を実際に作ってみたのか。それが実に「宇宙生物学」的で、この分野の醍醐味を体現している。藤島さんの最初のターゲットは、「アミノ酸を作るタンパク質」だった。

「現在のアミノ酸合成に関わる酵素は、20種類すべてのアミノ酸を使って成り立っています。でも、初期の生命が仮に今よりも少ない種類のアミノ酸しか使っていなかったとすると、その限られた種類の組み合わせで作った酵素で、新しいアミノ酸を合成しなければならなかったはずです。これも『鶏と卵の問題』を抱えていますよね。なので、この問題の一端を解決してみようと、 生命にとって非常に重要なシステインというアミノ酸を合成するのに必須な2種類の酵素から、全てシステインを取り除いた人工タンパク質を合成してみたんです」

システインというのは、生命活動にとって本質的な役割を担っているアミノ酸だ(その役割については、次回、触れる)。それなのに、自然には非常にできにくい、あるいはできてもすぐ反応してしまうため、生命は自分で作らないと使えない。初期の生命は、当時、利用できたアミノ酸で合成酵素を作り、システインを合成したはずだ。ところが、現在のシステイン合成酵素には、それ自体にシステインが使われている。これは困った。「システインが先か、システイン合成酵素が先か」という問題につながる。だから、藤島さんは、現在のシステイン合成酵素からシステインを抜いたものを作ってみるという発想に至った。

その結果──

「システインを取り除いた人工タンパク質でも、システインを作る機能が保たれることがわかりました。この研究は思いの外時間がかかってしまって、構想から4年の年月をかけてようやく昨年論文になりました。慶應の先生やスタンフォード大学の合成生物学のドリュー・エンディー教授にも加わっていただいて、生命の起源研究としても合成生物学としても画期的な成果になったと思います」

そのようなスリリングな実験を行いつつ、藤島さんは、エイムズ研究センターでの同僚と研鑽し、さらには東工大のELSIに籍を移して新たな同僚たちと議論をするなかで、考えを深めていった。そして、セントラルドグマの中で活躍する核酸(DNAやRNA)と、タンパク質といった物質についてこんな洞察を得た。

「実はですね、核酸もタンパク質も、紐、なんです」

藤島さんは、やや厳かな雰囲気で言った。生命活動の中で、とても大切な役割を担う核酸もタンパク質も、「紐」であると。

「DNAやRNAは、核酸がつながった紐ですし、一方で、タンパク質はアミノ酸がつながってできた紐です。こういった、ちょっと素材は違った2種類の高分子、紐を、生命はそれぞれ記憶媒体、化学反応を行う触媒としてうまく使っているんです。それなら、これらの高分子がどこから来たかが分かれば、今の生命がどう誕生して発展してきたかという大テーマの答えに近づけるんじゃないかなと思うようになりました」

生命はその活動の中で、遺伝子を格納するためには核酸という紐を使い、エネルギーを獲得して利用するためにはタンパク質という紐を使っている。これらの高分子がどのようにできて、どのように協調して働くようになったのか。大いに謎だ。そもそもセントラルドグマは2つの紐が協調しないとどうにも回らないから、やはり「卵が先か、鶏が先か」という議論にも発展しがちだろう。

とにかくここで、藤島さんは、核酸とタンパク質(あるいはもっと短いタンパク質であるペプチド)の共進化という視点を得た。そこからはどんな景色が見えるのか素描してもらう。

「僕が今思い描いている生命が誕生したプロセスというのは、こんなふうです」とプリントアウトした図を指さした。

「ELSIに来てから、地球の初期環境はどうだったのか研究している人たちとも話す機会もあって、さらに練り上げたものです。最初はですね、生化学的なプロセスが一切ない世界、つまり原始地球があって、そこには、原始地球上で誕生した有機物もあれば、宇宙から隕石に含まれて届いたような有機物もある、そういう状態です。高分子、僕が言うような『紐』がどうできたかがポイントです。『種』になるような有機物が、脱水縮合といって水が抜ける化学反応でつながることで紐になっていくんです。ここがおもしろいところで、我々は生命活動をするのに様々な有機物や金属を溶かすために水を溶媒として使ってるんですけれども、本来、水があるところでは紐はできにくいというジレンマがあるんです。なので、生命が誕生した場所として有力視されている候補として、例えば地表の温泉の乾くか乾かないかぐらいの縁の部分が昔から注目されています。そこで有機物が濃縮して脱水縮合して紐になったのではないかと言われていますし、最近では水が豊富だと思われていた環境においても、深海の液体二酸化炭素のように非常にドライ (水が少ないという意味で)な環境があることがわかってきています」

本当にここは、おもしろいところだ。系外惑星で「ハビタブル」なものを探す時にも液体の水が存在できるというのが基準になるし、太陽系内の探査でも生命の存在を追うためにはまず水を探す。火星で水が流れた痕跡などが見つかると、それは宇宙生物学的な大ニュースだ。しかし、藤島さんが言う「紐」が成長するためには、水中を漂っているだけではだめで、乾いたところで脱水縮合が起こらないといけないというのである。これは大いなるジレンマだ。だからこそ、地表の温泉の縁だったり、深海の液体二酸化炭素のような、水が抜けて濃縮したり、また水につかったり、ということを繰り返すようなところがこういった高分子ができる場だったのではないかというのが最近よく語られることだ。

「脱水縮合反応が起きてさまざまな紐ができても、それらがすぐに生命につながるかというと簡単ではありません。というのも、つながっただけではほとんどガラクタですから。そんな中で、機能を持ったものが選択されて残ってこなければならないですよね。じゃあ、どういう環境で、どういうものが残ってくるのかというのが、実はまだ調べられていないので、僕がやっているのはまさにそれなんです」

宇宙の化学進化、そして地球上での化学進化が進んで、生命の材料となるような物質が揃い、ある時から紐ができはじめ、そして、色々な種類の紐が試された結果、最終的に2種類の「紐」によって、現在生体内で起きているような生化学的反応の回路が駆動し始める。

その瞬間を実験室の中で再現したい。すごく大づかみに言って、藤島さんの野望の中心はそのあたりのようだ。

その際に「実際に作って確かめる」合成生物学的な手法を駆使するのである。

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年3月に公開された記事を転載)

藤島皓介(ふじしま こうすけ)
1982年、東京都生まれ。東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)「ファーストロジック・アストロバイオロジー寄付プログラム」特任准教授、慶應義塾大学 政策・メディア研究科特任准教授を兼任。2005年、慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、2009年、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程早期修了。日本学術振興会海外特別研究員、NASA エイムズ研究センター研究員、ELSI EONポスドク、ELSI研究員などを経て、2019年4月より現職。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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