おせち料理いつ食べますか? 北海道や信越は大みそか
おせち料理や雑煮などは地方によって具材や味付けが異なることはよく知られている。が、おせち料理を食べ始める日に差があることをご存じだろうか? 北海道、新潟、長野など一部の県では大みそかからおせち料理を食べ始める家庭が多いという。
大みそかからおせち料理を食べる地域があることに気づいたのは今から7~8年前、関東圏で生まれ育った私が信州に移住して間もないころのこと。移住先でできた友人が大みそかに自身のSNS(交流サイト)に豪華なおせち料理の写真をアップし、「今からおせち料理をいただきまーす!」と書き込みをしていた。
「はぁ? 今から? おせち料理のつまみ食い?」と最初は思っていた。私が育った家庭ではおせち料理を食べ始めるのは1月1日の朝から。といっても朝は雑煮がメインなので、がっつりおせち料理を食べるのは1日の昼からである。
年末年始のスケジュールとしては大みそかの夕方ごろまでおせち料理作りに追われ、その日の夕食は軽めに食べる。「年越しそば」を食べるため、その分の胃袋のスペースを確保しなくてはならないからだ。NHKの「紅白歌合戦」を見終わったころからそばの準備を始め、夜の11時半くらいからそばを食べるというのが決まりであった。
ところが、その後も信州に住む複数の友人が「おせち料理を食べながら紅白見てます」などと続々投稿していた。私が育った文化圏からすると「おせち料理×紅白」の組み合わせなんてありえない! が、SNS内には、こうしておせち料理を「フライング」して大みそかに食べている信州人が大発生していたのである。
不思議に思い、「おせち料理、大みそかから食べ始めるの?」とコメント欄に書き込むと、「おせち料理は大みそかに食べるものでしょ?」との返事。聞けば、信州では大みそかの夕方ごろから刺し身やローストビーフなどのごちそうとともにおせち料理を食べるご家庭が多いとか。そして、この「お年取り」の宴(うたげ)が正月よりもむしろメインイベントなのだという。
ちなみに信州では豪華なごちそう+おせち料理の後にも、しっかり年越しそばも食べるそう。さすがそばの産地である。
しかし、おせち料理を大みそかに食べるのは長野県だけではなかった。
日本最大のレシピサービスのクックパッドでは2015年12月に同社ユーザー4463人(女性3953人、男性510人)を対象に「お正月料理に関するアンケート」を実施。「毎年おせち料理を食べる」と回答した3499人に「おせち料理を食べ始めるのはいつですか」と質問したところ、1位は「1月1日の朝」と回答した人で65%、2位は「大みそか」で15%、3位が「1月1日の昼」で14%となった。
元旦から食べる人が圧倒的に多いものの、北海道では「大みそか」と答えた人が56%と過半数を占めた。大みそかから食べると回答した人が多い都道府県は1位北海道、2位新潟県44%、3位長野県31%の順であった。
北海道出身の友人に話を聞いてみると、「おせち料理? おせち料理は大みそかに食べるものです。元旦に食べるなんてありえません。大みそかの晩はおせち料理のほかに、カニや刺し身などの海鮮祭りで、一大イベントになりますね。私は関西の大学に進学しましたが、他県から来た友人たちが年越しの食事はそばだというのを聞いて、正直なところ『残念な人たちだな』と思いました」とのこと。
新潟県出身の友人にも話を向けると、「新潟も大みそかの食卓の豪華さなら北海道に負けていませんよ! おせち料理とともに寺泊で買ったカニとかブランド牛の村上牛ですき焼きしたりします」となぜか競争心むき出しに。
前出の北海道出身の友人によれば「雪国は冬、あまり外出もできないので、食が唯一の楽しみなんですよ」とのこと。確かに北海道も新潟も長野も雪国だ。試しに秋田県出身の友人にも聞いてみたところ、「うちも大みそかからおせち料理を食べていました」とのことだから、東北でもこの傾向があるのかもしれない。
では、北海道民に「残念な人」扱いされた「おせち料理は元旦から派」にも話を聞いてみよう。
「『大みそかからおせち料理』こそありえないですね。ってことは、元旦に食べるのは昨日の『残りもの』ってことですよね? 私だったら新年から残りものを食べるほうが残念な気持ちになってしまいますね」とは東京出身者の談。
続けて、「そもそもおせち料理は三が日にスーパーマーケットも飲食店も閉まっている中で食を確保するとか、正月三が日くらいは主婦を食事作りから解放しようという意味がある。大みそかからおせち料理を食べてると2日くらいにはなくなってしまうので、おせち料理の意味がなくなってしまうと思うんですよ」とも。
今は年中無休のファミレスやコンビニがあるので、三が日に食べものにありつけずに困ることはないのだが、もとの意味からすると正月に食べ始めるのが正しいという主張だ。
これらの点に関しては、「確かに二重だったお重が元旦には詰め直して一重になりますね」(北海道出身)、「おせち料理は多めに作って、元旦にはお重に足すので、『残りもの』って雰囲気にはなりませんが、1日の昼には若干飽きてますね。夜ごはんになると完全におせち料理には飽きて、焼き肉やったりしてます」(長野県民)だそうな。
三が日に食事を作らないというのは「火」を使わないことで「かまどの神様(=火の神様)」にも休んでもらうという意味があるそうだ。「元日から焼き肉」は火の神様も休みなく働かされてちょっと気の毒である。
さて、おせち料理とはそもそも何であろうか。おせち料理は、日本の宮廷の祝いの日の行事「節会(せちえ)」や伝統的な年中行事を行う季節の節目「節句」に作られる料理のこと。「御節供(おせちく)」が「おせち料理」と呼ばれるようになった。
これらの行事は奈良時代には宮廷内で行われており、それが庶民の間にも広まっていった。節会や節句の行事の中でも、最も大事なのが正月であることから、いつしか正月料理を「おせち料理」と呼ぶようになったという。
この節会の行事が大みそかに行われていたか元旦に行われていたかは定かではないが、一説では大みそかに来たる新年を祝っていたという話もある。また、昔使われていた太陰暦では「日が暮れたら日付が変わる」という考え方なので、大みそかの晩はすでに新年と考えられていた、という説もある。
いずれにしても、新しい年が「来る」ことを祝うのか、「来た」ことを祝うかの違いで、めでたい気持ちに変わりはない。大みそかから食べる家庭も正月から食べる家庭も、新しい一年を健康に過ごせるように祈りをこめて正月料理をいただこうではないか。
(ライター 柏木珠希)
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