女性の活躍妨げる国の制度 「働く個人」前提に改革を
ダイバーシティ進化論(出口治明)
女性が社会で活躍することを妨げている大きな要因の1つに国の制度がある。具体的には、専業主婦世帯の課税所得を圧縮する「配偶者控除」と、専業主婦に対して国民年金の負担をゼロにする「第3号被保険者」制度だ。こんな制度があれば、無意識のうちに「控除の上限を超えて働いたら損だ」、「保険料を払わなくていいから働かない方が得だ」と考えてしまう。
「女性も仕事を持つべきだ」という主張に対し「女性自身が必ずしも働きたいとは思っていない」と反論する人がいる。だがこうした制度や、解消しない待機児童問題などが存在する社会に身を置けば、「働くことは現実にしんどいから働かない方が特だ」と考えるのは自然だろう。制度が女性を家庭に縛り付け、人々の意識をゆがめる方向に働いていると考える。
なぜこんな制度が作られたのか。それは戦後日本の成長戦略が、製造業を中心とした工場モデルだったからだ。24時間稼働する工場で男性は長時間働き、女性は家で育児・介護・家事を担う。これが経済を発展させる上で最も効率的な家族の形と考えられ、性別役割分業が進んでいった。そして配偶者控除や第3号被保険者という制度が生まれ、寿退社や3歳児神話という考えが広まった。
だが今、世界をけん引しているGAFAなどはアイデア産業だ。製造業からサービス産業の時代になると、ユーザーは女性が中心になる。女性が活躍しなければ経済は伸びないし、新しいビジネスも生まれない。女性が生産サイドに入ることで需要と供給が一致する。今の日本が抱える需給のミスマッチと男女差別を解決するには、個人をベースとした制度が必要だ。
CMや商品パンフレットで、働く夫と専業主婦の妻、子供2人という家族モデルが標準として広く使われていることも問題だ。モデルが広まると、それに当てはまらない人が挙証責任を負うのだ。1人の人はなぜ結婚しないのか、カップルの人はなぜ子供を産まないのかと。大きなお世話だ。
今や単身世帯は4人世帯より圧倒的に多い。本当に良い社会を作ろうと思うなら、標準モデルは男女を問わず"働く個人"であるべきだ。もちろん同性や異性のパートナーと一緒に生活したり、子供がいたりするケースもあるだろうが、原則は個人。原則と例外を何にするかは、社会を形作る上で大きな意味を持つのだ。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2019年12月16日付]
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