面接官は答え方こそ見ている 就活で大切な印象のワナ
(3)自己プロデュース編
元お笑い芸人で、現在は人材研修などのコンサルティングを手掛ける中北朋宏さんが講師役となって、就活生に面接の極意をフィードバックする連載「面接道場」。第3回のテーマは自己プロデュース。受け答えの仕方など、面接官に与える印象の重要性について中北さんが解説する。
今回挑戦するのは、人材サービス企業を志望する都内私立大学3年の男子学生Cさん。大学ではディベート活動をしているだけあって、志望動機など定型質問にはよどみなく答える。しかし後半、面接官役の中北さんからの想定外の質問によって答えに窮する展開になった。Cさんの受け答えの様子を見てみよう。
中北 どういう企業を受けようとしているんですか?
就活生C インターンに参加した会社の中で、この会社だったら楽しく働けるだろうなというのを中心に受けようと思っています。
中北 インターンにはいくつか参加したんだね。一番いいなと思った会社のインターンはどんな感じでした?
C 新規事業をグループで考えるインターンで、結構レベルの高い人が多かったです。楽しかったですね、大変でしたけど。
中北 何が大変だった?
C スピード感のある人とそうでない人とでチーム内が分かれそうになったときがあって、その間に立って、ちょっと考えを整理しようよとか、ある意味、チームマネジメントみたいなことを頑張ったのですが、そこが大変でしたね。
中北 なるほど。ところでですが、友達はいますか?
C (戸惑いながら)いますよ。
中北 どんな親友がいるんですか?
C 自分の大学ではなくて他の大学の方なんですけど、どんな親友か……難しいですね。
中北 その人からCさんはどんなふうに認識されているんですか。
C どう思われているんでしょうね。身近な人をちゃんと大事にする人、そしてロジカルまではいかなくともちょっと頭がいい、というふうに思われていればうれしいと思います。
中北 すごいですね。ドヤ顔が(笑)。周囲の人はCさんのことをロジカルで頭がいいと思っている方が結構多いですか。
C どうなんでしょう。大学の人だと関係が薄い人も多いので、そうすると最初はとっつきにくいと思っている人は多いらしいです。そう言われることが多かったです。
中北 とっつきにくいって言われるんだ。それわかる。誰かとプロジェクトを進めたことはありますか。
C 今、インターンで新規事業を考えるということをやっています。
中北 そこでの協業はどういう形でやっていますか? チームワークの観点で聞いています。
C チームのメンバーと密にコミュニケーションを取れたらいいなと思っていて、あまり全員がそろう時間が少ないからこそ、一人一人としゃべって人間関係をつくるという時間は大事にしないといけないと意識しています。
中北 チームでどんな役割を担うことが多いですか。
C 議論を進めるリーダーまではいかないけど一番発言の多い位置であるパターンか、全体の流れを見てチームとしてまとまりが出るように、一人一人との関係を密に持つというパターンか、この2つのどちらかを取るということが多いです。
中北 なるほど。人と密に関係を取るんだ。でも一方でとっつきにくいと思われているんですよね。それだとロジックがちょっとずれちゃうんですけど、とっつきにくいと思われている現状の中で、何を意識されているんですか。
C とっつきにくいと思われているのは、初対面の段階ですね。例えばインターンであだ名を付けるときがあって、「○○ちゃんと呼んでください」と言うんです。かわいいじゃないですか、そうすると距離感が近くなるかなとか。話し始めればそんなにとっつきにくいと思われるわけではないので、2人で話す時間とか、LINEをやりとりするとか、そういうことはしています。
中北 初対面の段階でしか、とっつきにくいとは思われないんですか。
C そうですね。話し始めると意外に面白くてというのはあるんですけど。
中北 初対面の時点でとっつきにくいと思われるという事実を知っているのに、なぜ改善しないんですか。
C それはどういうことですか? 僕が知らない人全員と、別に深く関係をつくらなくてもいいかなと思っているのがその答えかもしれないですね。
中北 なるほど、そういう発想ですか。ちなみに小学校の頃、どんな子だったんですか?
C 交友関係が広い人でした。今も多めですけど。というのは、自分と関係が深くなった人をすごく大事にするっていう考え方で、例えば昔から勉強はできる方だったので、勉強に困っている同級生がいたら教えたり、他者に貢献したりしている感じがすごく好きでした。
プライド高い人の特徴、ドヤ顔に眉の動き
中北 ありがとうございました。どうでしたか?
C 今までもらったことがない質問があって、面食らいました。質問の意図が読めなくて。
中北 頭がよくて、話す内容もしっかりしていて、このまま採用されるということは大いにあるという感じですね。ただ気になったのは、自意識の高さ。マウントとってやろう感がすごいから。面接の中でも聞きましたが、周囲と協業できますかというのが不安に感じました。
C 実はチームワークについてはよく指摘されていて……インターンの面談のときにも、「チームワークに注意して」と言われました。
中北 今のキャラクターと、スイッチが入っているときの話し方が全然違うって認識ある?
C そんなに違います?
中北 別人よ。プライドが高くて自己防衛が入る人の特徴って、色々なところで眉が動き、決めるときのドヤ顔みたいなものもあります。目線もよく上に向く。相手を論破しようとしたり、批判的に見たりする印象を受けます。
C 具体的にどういう改善方法がありますか。
中北 すぐにできることは、(1)当たり前ですが、笑顔を多用する(2)話す速度を相手の理解に合わせる(3)これはすぐにできるかわからないけど、人の話を聞くこと――この3つです。人の話を聞いているふりをして、自分が次に何を言おうかを考えている印象でした。相手の話を受け止めている感覚がしない。最後に「貢献」って話してたけど、そんな速度で言われても、言ってることとやってることが違うなって感じてしまうんです。
とっつきにくさ認識しているなら、変える努力を
C チームワークの話は気を付けないと、とずっと考えていたんですけど、どんな話を出そうかと迷ってしまって。
中北 エピソードとか小手先の話じゃなくて、醸し出す雰囲気がチームワークがとれなさそうなんだよ。「僕はチームワークすごくて友達が多い方です」とかが、嘘に聞こえてしまう。友達が多い方とか、あの一言もいらない。そこまで掘り下げる時間がなかったけど、プライドの高さはコンプレックスからきているのかなって見えちゃう。だから、ほめてほめて!認めて!って聞こえてしまう。
C そんな自己承認欲求しまくりに見えますか(笑)。自分の弱点を突かれると焦ってしまってうまく答えられないんです。見破られたときにどうしたらいいかと悩みます。
中北 話す内容に重きを置いているけど、スタンスの問題なんです。Cさんはチームワークができなさそうだと見破られるという前提で考えた方がいい。顔に書いてあるというのに近い。弱点は誰にでもありますが、そもそも自己認知が低いやんっていう話です。人から見られているという観点がおろそかになっていないですかというのを面接の中でフィードバックしていたつもりです。
なぜ人からとっつきにくいと思われているのに、変えようとしないんですかと。とっつきにくさを認識しているんだったら、私なら変えようと努力をするんですよ。実際の仕事において、合わない人は全部切り捨てるなんてことできないですよね。
なぜ自己認知が重要か。笑いのネタの構造で、「フリ」と「オチ」っていうのがあります。フリは「共通認識」で、オチは「裏切り」です。フリをきかせてオチで笑わせる。相手から見た自分と、自分から見た自分がずれていると何が起こるかというとそもそも共通認識がずれているから、すべらない話も全然面白くない。これは笑いに限ったことではなくて、発言自体に説得力がなくなるんです。
前提として、話している内容は全然悪くないし、色々な企業から内定もらえると思うよ。笑顔で話す、人の話に相づちを打って聞く、論破しないようにするとか、ちょっと話し方を変えるだけですごく良くなると思います。
(文・構成 安田亜紀代)
浅井企画に所属し、お笑い芸人として6年間活動。トリオを解散後、人事系コンサルティング会社に入社し、内定者育成から管理職育成まで幅広くソリューション企画提案に携わる。その後、インバウンド系事業のスタートアップにて人事責任者となり、制度設計や採用などを担当。2018年に人材研修コンサルティングなどを手掛ける株式会社 俺を設立し、社長就任。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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