子どもの便秘の悩み 水分とるよりトイレの姿勢変える
子どもの便秘というと「ちゃんと野菜を食べていないから」と親の問題とされがちです。また、周囲に相談できる窓口がなかったり、かかりつけの小児科医に相談しても「そのうち治る」「病気ではない」と言われたり、浣腸(かんちょう)だけしておしまいというケースも少なくありません。
実は子ども自身もつらい思いをしていて、おなかが痛かったり、友達から「おならが臭い」と言われたり、恥ずかしくて言えないなど、ひそかに自尊心が傷ついていたりします。
こうした便秘に悩む人たちを、どう救っていったらいいのかについて、済生会横浜市東部病院・小児肝臓消化器科副部長の十河 剛さんによるセミナー(※)の内容を抜粋して紹介します。
2割の子どもは便秘の悩みを抱えている
セミナーの冒頭では、驚きのデータが発表されました。
3~8歳の子ども3595人(横浜市鶴見区)を対象とした「食事と排便に関するアンケート調査」1)では、718人の子に慢性便秘症の症状がみられました。15~20%の子どもが便秘の問題を抱えていることになります。
便秘は、排便回数だけでなく、腸内に過度に便がたまっていたり、排便時に痛みを伴うなど快適に便を出せないでいたりなどの問題も含みます。
調査項目は表のような内容ですが、すべての項目で、便秘の子は、そうでない子より数値が高くなっているのが分かります。
実はこれらの項目は、機能性便秘の国際的診断基準(ROMR3)に沿っています。
便秘というとどうしても「3日に1回しか便が出ない」など排便回数に目が行きがちですが、「便失禁をする」「我慢しがち」「腸に便がたまっている」「排便時に痛みが伴う」「便が硬い」などなども便秘の症状なのです。
便秘の子は、そうでない子より、便を我慢してしまったり、便をするときに痛みを訴えたりしている子が非常に多いことが分かります。
医学的に便秘の症状として挙げられるものには、「腹痛、裂肛(れっこう)、直腸脱、便失禁、肛門周囲の付着便や皮膚びらん、嘔吐(おうと)・吐き気、胃食道逆流・げっぷ・口臭、集中力低下、夜尿・遺尿」があります。
「たとえ毎日便が出ていても、便秘の可能性があるのです」と十河さんは指摘します。
毎日、排便しているのに便秘とは
ここで驚くべき事例が紹介されました。毎日便が出ていても、実は腸内に便が大量にたまっていた10歳女児のケースです。
4カ月前に胃腸炎になった際にげっぷが多くなり、その頃から月に1回程度の嘔吐が見られるようになった。当院整形外科を受診した際に院内掲示ポスターを見て、小児肝臓消化器科を受診した。
問診では、
本人 「うんちは1日1回、バナナうんちが出る」
母 「でも、トイレの時間が30分くらいかかる」
という回答がありました。
「問診などの結果を受け、レントゲン写真を撮影すると、直腸には『便塞栓(べんそくせん)』があり、大腸には大量の便が貯留していました。診断は、慢性便秘症+胃食道逆流症です。
そこで治療を開始。胃酸の分泌を抑制する薬(プロトンポンプ阻害薬)と、腸管内の水分量を増加させ、便中の水分量を増加、便が軟化する薬(ポリエチレングリコール製剤)を服用しました。
19日後には、排便時間は10分以内になり、げっぷ、嘔吐はなくなりました。口臭も改善しています。腸に便がたまり過ぎていたことから胃が圧迫され、食べたものの逆流を招き、口臭やゲップを引き起こしてしまっていたのです。
この症例のように、毎日便がでていても、腸に便がたまり過ぎてしまった結果、便が肛門をふさいでしまっている『 便塞栓』を起こしていることがあります」
この女の子のように、トイレにあまりに時間がかかっていたり、口臭やげっぷなどの症状があったりする場合には、便秘を疑ってみることが必要かもしれません。
では、便塞栓があるとどのような状態になるのでしょうか。以下の2枚の写真は、超音波で下腹部を撮影したものです。
▼便塞栓がある場合
○で囲んだ部分が、大量の便がたまって膨らんだ直腸です。子どもの直腸は直径が3センチ程度なのですが、便で5センチほどに膨らんでいます。膀胱(ぼうこう)が圧迫されてへこんでいます。
▼便塞栓がない場合
直腸は通常の大きさで、膀胱も圧迫されていません。
便塞栓を疑う症状には、次のようなものがあります。
・ 肛門、おしりの周りや、パンツにうんちが付着する
・ うんちがなかなか出ないのに、下痢便である。
・ おしっこは我慢できるのに、うんちはいつまでたっても漏らしてしまう。
・ 力んでいるのにうんちが出ない。
・ 最後の排便から1週間近く排便がない。
・ おなかの下の方に硬い物が触れる。
これらの症状がひとつでも当てはまったら、専門の医療機関で相談してみたほうがいいかもしれません。
乳製品やお水をとっても良くならない
便秘というと、食物摂取や乳製品、水分などの摂取をしたらお通じがよくなるのでは?と考えるかもしれませんが、実は関係性が認められないのだといいます。
「便秘との関連性を調べた研究では、食物繊維、乳製品、水分のどれも、便秘解消とは関係性が認められませんでした。水分を摂取してもおしっことして出てしまうので便は緩みませんし、乳製品や食物繊維も明らかな相関は見られませんでした。
唯一便秘と関連があったのは食事における脂肪の割合で、脂肪が多い食事を摂っているほど、便秘になる割合が高いことがわかっています」
では便秘の治療はどのように行われるのでしょうか。ステップとしては、以下のようになります。
(2) 規則正しい生活習慣、規則正しいバランスのとれた食事、規則正しい排便習慣を心がける。
(3) これらの補助として、お薬を使う。
「排便習慣については、鈍った直腸のセンサーを正常に戻すために、直腸が普段は空っぽの状態で、直腸に便が降りてきたら、排便をしてまた空っぽにすることが大切です。そのために、最近では浣腸だけでなく、新しい経口治療薬も小児に適用できるようになりました」
排便時の姿勢も、便秘解消には大きく関係します。排便時の姿勢は、写真右のように少し足を上げると、直腸がまっすぐになり、排便しやすいのだといいます。
便座の足元に、お子さんの足が少し持ち上がるような台を置いてあげてください。
子どもは、おむつを外すトイレトレーニングの時期に便秘になることが多いといいます。慢性の便秘は、トイレトレーニングがきっかけで発症することが多いのですが、トレーニングがきっかけで良くなることもあります。
子どもたちはまねが大好きですから、トイレトレーニングは大人がやってみせたり、一緒に競争したりしてみてください。子どもたちは褒められると繰り返しますから、スモールステップで褒めてあげることが大切です。ポイントとしては、以下を心掛けるといいですね。
・ スモールステップでコツコツと
・ できなかったことより、できた行動に注目する
・ 具体的に指示をする
・ 褒めるときは役者になる
子どもの便秘についての相談・治療をしてくれる医療機関は、「日本トイレ研究所」で探すことができます。
慢性的な便秘は、水分や乳製品、食物繊維の摂取などの自己努力ではなかなか解決しません。便塞栓ができている場合には、まずフタ(便塞栓)を取り除き、その上で生活習慣や食生活などを改善することが大切です。
子どもの排便について悩んでいる場合には、ぜひ一度、専門の医療機関で相談をしてみましょう。
※「大人が知らない【子どもの慢性便秘症】の実態と世界標準へと歩み出した最新治療 ~便秘難民ゼロを目指して~」セミナー(2019年3月)
済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科副部長。1995年、防衛医科大学校医学科卒業。2003年、防衛庁退職。2012年、横浜市立大学医学部非常勤講師などを経て、2013年より現職。
(取材・文 渡邉由希)
[日経DUAL 2019年7月9日付の掲載記事を基に再構成]
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