二日酔い・悪酔い対策 漢方薬や新顔サプリの実力は?
酒好き医師が教える忘年会対策(下)
酒席の前などに、二日酔い・悪酔い対策のために漢方薬やサプリを飲んでいる人は多い。だが、どのような漢方薬やサプリを選べばいいのか、飲む前に単発で飲んでいいのか、体質・症状でどう使い分けるのかなど、分からないことも多い。酒ジャーナリストで新刊『酒好き医師が教える もっと! 最高の飲み方』を出版した葉石かおりさんに解説してもらおう。
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酒飲みには、「ここぞ!」というときに飲む、二日酔い防止のサプリメントや薬があります。飲み会では、そんな「特効薬」の渡し合いが始まったりします。ウコン入りのドリンク剤もあれば、肝臓水解物(豚などの肝臓に消化酵素を加えて加水分解したもの)もあるでしょう(なお、自分用に処方された薬を他人に勧めるのはNGです)。
かくいう私にとって、ここぞというときの切り札は、漢方薬の「五苓散(ゴレイサン)」です。飲み会の前に飲むと、悪酔いしにくいし、お酒を飲んだ後に服用すれば、むくみにくくなります。
私の周囲にも五苓散の愛用者は多く、これまで取材した「酒好き医師」の中にも五苓散を愛用していた人がいました。ただ、これだけお世話になっている五苓散ですが、そもそもこれがどういう薬で、どういう状況で飲むべき薬なのか、恥ずかしながらよく分かっていませんでした。
そこで、酒と健康にまつわる最新の拙著『酒好き医師が教える もっと! 最高の飲み方』より、漢方専門医による漢方医学的な診察を行う「漢方ドック」を2016年から始めている北里大学東洋医学総合研究所の医史学研究部部長・星野卓之さんに聞いた解説を紹介します。
また、漢方薬や肝臓水解物ではない新顔として酒好きの間で注目されているのが、「酢酸菌酵素」です。この酢酸菌酵素を含むサプリを商品化したキユーピー研究開発本部の奥山洋平さんに聞いた話も併せて紹介しましょう。
漢方では「酒はクスリ」
まずは漢方薬について。
「意外かもしれませんが、漢方の世界では、医療にお酒はつきもので、酒には薬効があると考えられています。実際、中国では昔から薬効のある生薬を漬け込んだ薬酒が使われてきました。日本だと養命酒が有名です。しかし、いくら薬効があっても『過ぎたら毒』。これは漢方に限ったことではないでしょう」(星野さん)
やはり、飲み過ぎはよくないというのは、漢方の考えにおいても同じのようです。では、酒を飲み過ぎたときに、漢方ではどう対処するのでしょうか。
「漢方では一般に、悪酔い・二日酔い対策には五苓散と、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)が使われます。酒飲みの間では一般に、この2つがいいと言われていますね。いずれも私も使っていて、場合によっては時間差で両方飲むこともあります。これらの漢方は、飲む前に飲んでもいいですし、飲んだ後や翌朝に調子が悪くなったときに飲んでも構いません」(星野さん)
「五苓散は、慢性的な頭痛にも処方されます。むくみ、口渇(こうかつ)、下痢、嘔吐(おうと)、排尿困難といった「水毒」に効果があります。これらの症状は、『口は渇いているのに、足はむくんでいる』といった、体内における水の偏在からくるものです。五苓散は体内の水の流れを整え、水分の分布を均等にする効果があるのです」(星野さん)
むくみ、口渇、下痢、嘔吐、排尿困難……まさに二日酔いの朝にありがちな症状ですよね。私は五苓散を使っていると、特にむくみに効果があると感じています。
星野さんは、「五苓散は体質をあまり選ばず、多くの人に飲んでいただける漢方薬です。二日酔いでも、水毒が原因となる軽めの症状のときに適した漢方薬です」と話します。
黄連解毒湯は「解毒剤」として働く
「五苓散と並んで、二日酔い・悪酔い対策に使われる黄連解毒湯は、酒毒を消す、つまり解毒剤的な役割をしてくれます。黄連解毒湯は、熱による炎症を抑えるのに用いられる薬です。一般的には解熱、のぼせ、赤ら顔、アトピー性皮膚炎などの改善のために処方されます。胃腸などの消化器系の炎症を抑えますので、二日酔いによる胃の不快感、それに頭痛などの緩和にも役立ちます。飲み過ぎ全般に効果的です」(星野さん)
星野さんによると、黄連解毒湯は、お酒を飲んで赤くなる、体が熱くなるタイプの方に向いているとか。
「黄連解毒湯は、『体の熱を冷ます』『炎症を鎮める』効果が強いので、寒がり、冷え性の方には向きません。また、人によっては微熱が出たり、慢性的な倦怠感といった副作用が出ることもあります。問題が起こることは多くはありませんが、何かあれば医師に相談することをお勧めします」(星野さん)
「酢酸菌酵素」というニューフェース現る
さて、飲む前に飲む「助っ人」として、数年前からサプリメントが販売されている「酢酸菌酵素」はご存じでしょうか。私も最初に聞いたときは、何のことかさっぱり分からなかったのですが、サプリを商品化したキユーピーの奥山さんに聞きました。
「お酢の主原料はアルコールです。バルサミコ酢がワインから作られるように、お酢はお酒から作られるのです。そして、アルコールからお酢の成分である酢酸を作る際に菌の力を借りるのですが、その菌こそが酢酸菌です。酢酸菌の周りに酢酸菌酵素がついていて、これがアルコールを酢酸に変える働きがあるのですよ」(奥山さん)
アルコールが酢酸に変わるというのは、体内でアルコールが分解されるプロセスと実は同じなのです。肝臓でアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドに分解され、さらにアルデヒド脱水素酵素により酢酸に分解されます。
「先ほど酢酸菌酵素が、アルコールを酢酸に変えるとお話ししましたが、この酢酸菌酵素というのは、アルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素そのものなのです。アルコールから酢を作るのも、体内でアルコールを分解するのも、実は同じ仕組みなのです」(奥山さん)
何と、体内でアルコールを分解するプロセスと、お酢を製造するプロセスが同じだったとは驚きです。
そして、キユーピーが発売しているサプリメント「飲む人のための『よいとき』」の中身は、酢酸菌酵素、つまりアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素なのです。確かに、商品パッケージの背面にある「原材料名」の欄を見ると、しっかり「アルコール脱水素酵素」「アルデヒド脱水素酵素」と書いてあります。
何という発想の転換。これまでウコンや肝臓水解物など、「肝臓がんばれ成分」を主体にした健康食品は見てきましたが、「外から2つの酵素を足す」というものは初。実に斬新です。
そもそも、奥山さんが酢酸菌酵素を使ったサプリを開発するきっかけは、キユーピーで酢を製造するプロセスからひらめいたのだとか。「マヨネーズを作る際、材料としてお酢を使います。キユーピーでは50年以上前からマヨネーズに使用するお酢を自社で製造しています。アルコールに酢酸菌を加えるとお酢になるのを見ているうち、この酢酸菌の力を応用できないかと思ったのがきっかけです」(奥山さん)
血中アルコール濃度が3割抑えられた
奥山さんによると、酢酸菌の表面にアルコール脱水素酵素と、アルデヒド脱水素酵素が存在していて、酢酸菌とアルコールが接触することで、アルコールが酢酸に変化するそうだ。実際、目に見えない分子レベルで調べると、酢酸菌の表面にアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素が並んで存在していて、1秒足らずの間にアルコールを酢酸に変えているのがよく分かるのだそうです。
「酢酸菌が持つ2つの酵素のうち、特に活性が強いのがアルデヒド脱水素酵素です。アルコールを酢酸に変える微生物はほかにもいますが、酢酸菌の力は断トツです。酢酸菌は自分の周りに抗菌性の高い酢酸を作ることで自分のテリトリーを作ってほかの微生物から身を守り、何千年もの間、生き残ってきたのです」(奥山さん)
ここまでの説明で、酢酸菌酵素がアルコールを酢酸に変える能力が高いことはよく分かりました。では、実際の効果はどうでしょうか。奥山さんは女子栄養大学との共同研究で、日常的に飲酒習慣のある40~60代の健康な成人男性7人を対象にした試験を行いました。その結果、同じ対象者の酢酸菌酵素を摂取しない状態に比べ、摂取した場合は体内の血中アルコール濃度が有意に低下し、30%程度抑えられるという結果が得られました。
では、これを「いつ飲めば」、酢酸菌酵素の恩恵をより多く享受できる可能性が高いのでしょうか。「要は、胃に食物が停滞しやすい条件で、アルコールと酢酸菌酵素がよく混ざるようにするとよいと考えられます」と奥山さん。胃に食べ物、特に油分があったほうがサプリメントの滞留時間が長くなり、アルコールと接する時間が長くなるわけです。
奥山さんの研究データから、酢酸菌酵素を飲んでから3時間くらい効果が続くと考えられています。そのため、長い飲み会のときなどは、最初の乾杯時と、後半戦の2回にわたって飲むのも手かもしれません。
漢方薬、そして酢酸菌酵素の助けも借りながら、この年末年始の宴会シーズンを乗り切りましょう!
エッセイスト・酒ジャーナリスト。1966年生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。ラジオレポーター、女性週刊誌記者を経て現職。全国の酒蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。「酒と料理のペアリング」を核に、講演、セミナー、レシピ提案を行う。2015年一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション設立。サケ・エキスパートの育成、日本酒イベントのプロデュースも行う。著書に『酒好き医師が教える もっと! 最高の飲み方』など。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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