毎月30万個売れる 洗剤なしで汚れ落とす洗濯グッズ

「洗たくマグちゃん」の価格は1800円(税別、以下同/マグちゃんショップ 楽天市場店)ネット素材は、発売当初から蛍光塗料などを使用していない「旭化成フュージョン」を使用している
「洗たくマグちゃん」の価格は1800円(税別、以下同/マグちゃんショップ 楽天市場店)ネット素材は、発売当初から蛍光塗料などを使用していない「旭化成フュージョン」を使用している
日経クロストレンド

洗剤を使わず、高純度のマグネシウムで洗濯物の汚れや臭いを落とす洗濯グッズが大ヒットしている。マグネシウム製品の製造販売を手掛ける宮本製作所が2012年に発売した「洗たくマグちゃん」だ。毎月30万個を売り上げ、19年10月には累計販売数が350万個を突破した。

洗たくマグちゃんは、直径約12センチメートルのメッシュ素材の中に純度99.95%のマグネシウムの粒が50グラム入っている。これを洗濯物と一緒に洗濯機に入れると、マグネシウムが水と反応して洗濯槽内の水道水が弱アルカリイオン水に変化する。弱アルカリイオン水は、洗濯物に付着する油脂を分解し、臭いの原因となるカビを落とす。その特性を生かした商品だ。洗濯物5キログラムに対して、洗たくマグちゃんを2個使用すると市販の洗剤と同等の効果を発揮し、300回以上繰り返して使用できるという。

純度99.95%のマグネシウムの粒。マグちゃんに詰めるマグネシウムの加工は外注している

洗たくマグちゃんを継続して使用することで、洗濯槽や排水ホース、排水口の汚れも徐々に落ちることが実証されている。宮本製作所の宮本隆社長は、「水のpH値が8.5~9になると洗浄効果を発揮する。pH値が高い水は微生物が増殖できなくなり、カビも繁殖しなくなる」と話す。

ブレークのきっかけは、18年9月にテレビ東京の「ガイアの夜明け」で特集されたことだった。それまでの売り上げは月500万円ほどだったが、放送翌日には、約1億9000万円分の注文が入ったという。それ以降、売り上げは下がっておらず、「19年度は25億円の売り上げを見込んでいる」(宮本氏)

写真左はマグネシウム70グラム入りの「ベビーマグちゃん」(2400円)。写真右は100グラム入りの「ランドリーマグちゃん」(3600円)

一見すると順風満帆だが、宮本製作所は08年から業績が悪化し、銀行融資も受けられないという不遇の時代を2年半ほど経験している。「月末になると資金が足りず、知り合いから数百万円貸してもらう、そんな日々が続いていた」(宮本氏)という。

洗濯排水を有機農業に活用するビジネスも視野

宮本製作所は1965年、宮本社長の父親が創業。自動車部品を製造する下請けの町工場だった。同社がマグネシウム関連の製造に特化し、オリジナル商品の開発を始めたのは04年ごろからだ。「毎年、自動車メーカーから3%のコストダウンの要請があり、それに応じていた仲間の会社は3年で倒産した。そんな状況から抜け出すためにも、オリジナル商品を開発してメーカー側になろうと考えた」(宮本氏)

そのときに目を付けた素材がマグネシウムだった。宮本氏は約35年前にマグネシウムと出合い、軽さをはじめとする特性に可能性を感じたのだという。「そのことがずっと忘れられず、マグネシウムに特化したメーカーになろうと直感で決めた。マグネシウムの専門家でもなく、成功する根拠はなかった。だが当時、マグネシウムの加工を手掛けている町工場は少なく、他社ができないことをやればもうかると思った」(宮本氏)

利益率の良い下請け仕事のみ残し、マグネシウム製品の開発に注力。ゴルフのパターをはじめ、機械加工時に出る音を吸収する機械部品など、これまで自動車部品を製造してきた加工機械と技術を活用しながら、次々と新商品を開発した。だが、どれも思うようには売れなかったという。

2011年に開発した熱帯魚用水槽の水質を保つマグネシウム入りの石「グッピーストーン」。商品発表の目前で東日本大震災が発生したため販売機会を逃したが、その後の洗たくマグちゃんの開発につながり、洗濯グッズ市場に注力することにした

そこでニッチな製品ではなく、家庭用品のような大きな市場を狙おうと考え、洗たくマグちゃんが誕生した。ただ、洗たくマグちゃんの開発ストーリーについて聞くと、隠しているわけではないと前置きして、次のように話す。「開発時期がちょうど経営が行き詰まっている頃で、マグネシウムの特性を生かしてもっと売れるものは作れないか無我夢中で考えていた。だから本当に具体的なことは覚えていない」(宮本氏)

経営に行き詰まりながら、知人に借金をしてまでも開発を続けた。なぜ諦めなかったのか。「マグネシウムの可能性を信じていたことと、成功した実業家たちの本を片っ端から読み、彼らの名言を心の支えにしていたからだと思う。スティーブ・ジョブズの『金不足を嘆くより、 夢不足を嘆け』と、ビル・ゲイツの『成功の秘訣? それは大きなビジョンが持てるかどうかだよ』。これらの言葉にどれだけ励まされたか分からない。自分の経験からも、イノベーションを起こすために必要なことは、自分のこだわりを信じて、大きな夢を持つことだと思う」(宮本氏)

宮本氏の夢は着々と実現している。19年9月4日には、小田急百貨店新宿店に常設店をオープンした。現在、マグネシウムと水だけで作る新商品「液体マグちゃん(仮)」の発売に向けて準備を進めている。新規ビジネスも計画中だ。「洗たくマグちゃんだけで洗った洗濯排水は マグネシウムの他、汚れが分解されてできた窒素やリン酸、カリウムなど、農業に必要となる栄養素を含む。各家庭から洗たくマグちゃんで洗った後の排水を買い取り、有機農業に活用するビジネスを始める。神奈川県相模原市で実証実験を進めている」と宮本氏は話す。

(ライター 西山薫)

[日経クロストレンド 2019年12月5日の記事を再構成]

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