星空楽しむ「宙ガール」急増中 双眼鏡で手軽に観測
日没が早まり空気も澄む冬は、星座を楽しむ絶好のシーズン。冬空にはオリオン座や北斗七星など初心者でも見つけやすい明るい星で構成された星座が多い。かつては天体観測や天体撮影と言えば男っぽい趣味だったが、今ではカジュアルに星空を楽しむ「宙(そら)ガール」が増えているという。
都内でも星座鑑賞を満喫
「もともとモノづくりの会社だが、コトづくりにも取り組んでいる」と話すのは、天体望遠鏡で国内トップシェアのビクセン(埼玉県所沢市)の都築泰久取締役。同社は光学機器を製造する一方で、天体観測など体験型イベント企画を事業化している。
「販売促進活動として行っていた天体観測会のノウハウを生かし、商業施設の集客や自治体の地域活性化のための体験型イベントを提供している」と都築氏。手がけるイベント数は現在、年間200件ほど。そして同社が近年重視しているのが女性の星空愛好家を増やしていくことだ。
都築氏によれば、過去に富士山麓の音楽フェス会場で天体観測イベントを開いたところ、従来の天文ファンとは明らかに異なる星好きの女性が予想以上に集まって驚いたことがきっかけ。「そこで彼女たちを『宙ガール』と名付けて、グッズ開発やプロモーションを始めた」
そんな宙ガールの一人が東京都目黒区に住む会社員の望月麻千子さん(41)だ。望月さんは軽量コンパクトな双眼鏡を持ち歩き、都内で見える星々を楽しんでいる。「最寄り駅から自宅までの間に空が開ける場所がある。仕事帰りに目の前に月が現れた時など、一瞬で疲れを忘れて幸せな気分になる」という。
天体観測といえば天体望遠鏡が思い浮かぶが、星座や星空を気軽に楽しみたいのなら双眼鏡の方が扱いやすい。都築氏は「倍率6~10倍ぐらいの明るく手ぶれしにくい双眼鏡」の利用を勧める。理想的には対物レンズの口径が40ミリメートル以上のモデルが望ましいが、小口径の双眼鏡でも十分楽しめるそうだ。じっくり腰を据えて観察したいのならば、三脚に固定できるタイプを選ぶといい。
群馬県高崎市在住の宙ガール(25)は技術系会社員。お気に入りの冬の星座はおうし座で、オレンジ色に輝く最も明るい恒星、アルデバラン(意味は後に続くもの)の響きが「格好よくて」好きなのだとか。
普段は自宅アパートの駐車場で星空を見ているが、昨年からSNSで知り合った同性同年代の星好きの友人と共に、長野県で開かれる星空鑑賞会に参加。自宅に天体望遠鏡を所有し「たくさんの人に星空の素晴らしさを伝えたい」との思いから星の撮影にもチャレンジしている。
「星のソムリエ」資格も
宙ガール向け写真入門講座で講師を務める天体写真家で、自身も宙ガールである武井咲予さんにきれいな星空を撮るコツを聞いてみた。
まず、撮影場所は照明が少ない開けた場所が良い。街中でも駐車場や運動公園など意外な撮影スポットがある。その上で「ISO感度を高めに設定し、シャッタースピードは20秒前後。明るいレンズを使いたいが、通常のズームレンズでも広角側を使えば大丈夫。水平をしっかり取って構図を決め、星にしっかりピント合わせること」と武井さん。
初心者には星空だけでなくお気に入りの景色を交えた「自分らしい」写真を撮影することを勧める。「オリオン座やカシオペアなど有名な星座と、建物や樹木など地上の風景を組み合わせると構図が決めやすい」
星空や宇宙の楽しみ方を教えたい人向けに民間団体が認定する「星のソムリエ(星空案内人)」という資格がある。武井さんも有資格者の一人だ。双眼鏡で星空を観察している望月さんもスクールに通って準ソムリエになった。
「星や宇宙も知識があるほど楽しみが広がるのはワインと同じ。スクールで知り合った友人との交流も続き、来年はみんなでニュージーランドに星を見に行こうと計画中」と望月さんは話す。
広大な宇宙にいやされ、同じ星空を見上げる仲間とつながり、この地球上で生きる喜びを広げていく宙ガールたち。彼女たちにとって星は占いの対象ではなく、自ら学び、楽しむ対象だ。
(ライター 大谷 新)
[日本経済新聞夕刊2019年12月7日付]
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