アニメ『人間失格』 太宰治の名作が近未来SFで復活
「恥の多い生涯を送ってきました」――。酒や薬に溺れ破滅へと至った1人の男・大庭葉藏の生涯を描いた、日本文学の最高峰「人間失格」(太宰治)。これを大胆に再構築したアニメーション映画「HUMAN LOST 人間失格」が公開された。
物語の舞台は昭和111年の東京。人々は体内に埋め込まれたナノマシンとネットワークで管理する「S.H.E.L.L.」体制により、120歳の長寿を約束されていた。しかし、その社会システムは経済格差など様々な歪みを生み、またS.H.E.L.L.から外れて異形化する「ヒューマン・ロスト現象」を引き起こすなど、日本は混乱のなかで崩壊の危機に陥っていた。
クリエイター陣は「アフロサムライ」など海外でも高い知名度を誇る木崎文智監督、脚本は小説家で「蒼穹のファフナー」シリーズなどアニメの脚本も手掛ける冲方丁、さらに「踊る大捜査線」の本広克行をスーパーバイザーに迎えた。企画立ち上げから完成までには4年以上がかかったという。
「最初にプロデューサーから『人間失格』を"SFでアクションエンタテインメントとして再構築したい""『AKIRA』『攻殻機動隊』のような日本の伝説的SFアニメーションに続く作品を目指したい"と話をされたときは、正直ムチャ振りだなと思いました。けれど、現代の若者や一般の人たちにちゃんと響くものにできれば面白いんじゃないかなと。SF作家の冲方さんがいらっしゃることも心強かったですね」(木崎監督、以下同)
最も長い時間をかけたのがストーリー作りだ。「『人間失格』を原案にする以上は絶対に外せない部分を押さえつつ、そこに何を入れるのか」について話し合われた。
「『人間失格』のエッセンスは、主にキャラクターの性格やバックボーンに反映されています。主人公の葉藏が周囲を巻き込んで不幸にしていく様や道化であるからこその言動、ヒロインの柊美子の"信じる天才"ぶりなど、見た人に『人間失格』だよね、と思ってもらえる要素は細かく入れていきました。世界観は原案の持つ昭和の退廃的空気プラスSFです。そこから現代の僕たち同様、格差社会や先の見えない閉塞感がこの物語の世界でも当然あると考えて、社会の崩壊か再生か? 現代に通じる社会問題も意識しつつ作っていきました」
「GODZILLA」3部作などのポリゴン・ピクチュアズによる3DCG映像も圧巻のシーンの連続だ。冒頭、高速道路で繰り広げられるバイクアクションなどには特に力が入る。
19年は多くのオリジナルアニメ映画が公開されたが「僕たちが作るなら尖ったものをとは思っていました」という木崎監督。映画はアヌシー、シッチェスなど世界各地の主要映画祭を網羅。10月には北米150館以上で公開され大反響を巻き起こし、日本で凱旋公開となる。古典の名作が現代にSFエンタテインメントとしてどうよみがえったか。「ジョーカー」が大ヒットするなか、"ダークヒーロー"ものとしても気になるところだ。
(「日経エンタテインメント!」12月号の記事を再構成 文/山内涼子)
[日経MJ2019年12月6日付]
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