文豪いじりSNS映え 奇書「もしそば」が売れる理由学生消費 裏からみると…(2)

常見陽平(千葉商科大学専任講師)

常見陽平(千葉商科大学専任講師)
2019/12/16

もしそばヒットの背景には、ネット文化との親和性の高さがあるが、菊池さん自身ももともとネットを舞台に創作活動を始めている。小学校6年生だった1999年からネットにはまり、日記サイトを開設して情報発信を始めた。一方で読書にものめり込み、図書館の本を貪り読んだ。菊池さんを一躍有名にしたのが「世界一即戦力な男」というサイトである。ちょうど就活の時期に、自分を売り込むためのサイトや動画をアップしたところ評判を呼び、これがデビュー作にもつながったほどだ。

今の若者を菊池さんはどのように見ているのだろうか。「高校生、大学生を中心に『読書垢』をつくる若者に注目しています。『#読了』『#おすすめの10冊』などのハッシュタグでSNS投稿をする読書好きの若者たちがいます。本が好きな彼ら彼女らに届く作品をこれからも作りたいと思っています」と語ってくれた。

また、若者に選んでもらうには、ビジュアルも重要だ。その点、もしそばの「インスタ映え」する表紙もポイントだった。編集者の九内氏によると、ある日、漫画家の田中圭一氏が表紙を描けば、この本は売れるのではないかというアイデアが「おりてきた」という。30万部超えのベストセラーになった「うつヌケ」(KADOKAWA)が売れ始めた頃であり、書店で田中氏の描いた表紙をよく見かけるようになった頃だった。

田中圭一氏の描いた太宰治のイラストは、誰にでもわかるものであり、いわゆる「映える」。書店で手に取りたくなるものになった。装丁家は「JTの「大人たばこ養成講座」などで知られる、寄藤文平氏が担当。初版の帯では若者に人気のあるクリープハイプの尾崎世界観が推薦文を書いた。気づけば最強の布陣による、強い表紙が出来上がっていた。

九内氏によると、狙い通り、ネット書店よりもリアルな書店でよく売れているという。太宰治を描いたイラストは世代を超えて誰にでも伝わる。モノとしての本、ファッションアイテムとしての本の魅力が伝わった結果だと言えるだろう。

これまで見てきたように、「もしそば」ヒットの裏には、「文豪」という共通体験、モノとしての書籍の魅力、何よりつくり手の熱量があった。私も一書き手として、若者に届くものを書くことを諦めてはいけないと勇気をもらった取材だった。

常見陽平(つねみ・ようへい)
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。
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