文豪いじりSNS映え 奇書「もしそば」が売れる理由学生消費 裏からみると…(2)

常見陽平(千葉商科大学専任講師)

常見陽平(千葉商科大学専任講師)
2019/12/16

これ以外にも、どこかで聞いたことのあるような、読んだことのあるような文体模写芸が続いていく。その人物のことや文体を理解しきれていなくても、くすりと笑える。

全国大学生活協同組合連合会が2019年2月に発表した『第54回学生生活実態調査の概要報告』によると、読書時間「0」の学生は48.0%だった。1日の読書時間の平均は5年ぶりに伸びて30分(前年比+6.4分)、読書時間60分以上の人が26.7%と前年から8.4ポイント増加するなど明るい兆しもあるが、大学生の約半数が読書習慣なしというのが実態だ。

そんな中で、もしそばは2017年6月に初版2万部でリリース後、すぐに増刷がかかり、2019年10月時点でシリーズ全体で17万部のベストセラーとなっている。文庫化され、最近では電子版もリリースされたほか、台湾版、韓国版と国際展開も進んでいる。出版した宝島社によると、読者の3分の1が10代から20代の若い層。「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本2017」にも選ばれたほか、大学生と本のタッチポイントである大学生協でも売れ行きは好調で、SNSへの表紙の投稿が相次いだ。

なぜ、本を読まないとされる若い世代に受け入れられたのか。著者の一人である菊池良氏と、宝島社の担当編集者九内俊彦氏に話を伺った。

著者の菊池氏はあるとき、読書離れの進む若者世代にも、共通の読書体験があることに気づいた。それが、教科書に載っている「文豪」と呼ばれる人たちの作品だった。インターネットで情報が手に入り、お金や時間をかけて読書をする習慣がなくても、教科書だけは読むのだ。

実際、ツイッターなどのSNSで評判になる、文体や設定を模写したパロディー投稿でも「鉄板」でウケるのは太宰治の「走れメロス」や、芥川龍之介の「羅生門」など、教科書で頻繁に見る作品だ。

文豪のキャラクター化も進んでいる。泉鏡花や芥川龍之介が登場するゲーム「文豪とアルケミスト」(DMM GAMES)や春河35、朝霧カフカが書いた「文豪ストレイドッグス」(KADOKAWA)などが若者にヒットしている。価値観や志向の多様化が進む中、文豪こそが実は共通体験になっている。

文体の模写など、作品を「いじる」投稿は若者も含め、SNS上で盛り上がりを見せる。菊池さんは2015年に村上春樹風の投稿をTwitterに投稿して反響を呼び、テレビ番組の中でも一部、取り上げられたほどだ。

ちなみに、現在、32歳の菊池さんが最初に読んだ村上春樹は「海辺のカフカ」だったという。村上春樹が書かないようなことを、彼の文体でSNSに投稿したら、ウケた、バズった。「面白くて、初めて上下巻読みきった小説でした。文体が格好良く、模写したものも格好良くなるので書いていて気持ちいいです」と語る菊池さん。この「文体模写芸」が売れる素地を感じたという。

今こそ始める学び特集
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録
今こそ始める学び特集
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録