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文豪いじりSNS映え 奇書「もしそば」が売れる理由

学生消費 裏からみると…(2)

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NIKKEI STYLE

U22世代に売れた商品について、そのヒットの要因や、仕掛け人の動きを追う新企画。今回は、文豪や有名作家の文体をまねてつくったベストセラー本「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」(神田桂一・菊池良著 宝島社 通称・もしそば)を取り上げる。若者の活字離れがいわれる中で、学校の教科書にも載っている文豪や有名作家の文体をパロディーにするスタイルと、ツイッターやインスタグラムなどのSNSにフィットする内容とが相まって若い世代に受け入れられたようだ。

「もしそば」は、100人以上の国内外の文豪や有名作家の文体をまねて、カップ焼きそばの作り方を延々と書き連ねた本だ。太宰治、芥川龍之介などの文豪から、小沢健二や星野源などのミュージシャン、さらには、やまもといちろう、ちきりんなどのブロガーまでが登場する。早速、本の中から引用してみよう。

 1973年のカップ焼きそば
 きみがカップ焼きそばを作ろうとしている事実について、僕は何も興味を持っていないし、何かを言う権利もない。エレベーターの階数表示を眺めるように、ただ見ているだけだ。勝手に液体ソースとかやくを取り出せばいいし、容器にお湯を入れて三分待てばいい。その間、きみが何をしようと自由だ。少なくとも、何もしない時間がそこに存在している。好むと好まざるとにかかわらず。読みかけの本を開いてもいいし、買ったばかりのレコードを聞いてもいい。同居人の退屈な話に耳を傾けたっていい。それも悪くない選択だ。結局のところ、三分間待てばいいのだ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ、一つだけ確実に言えることがある。完璧な湯切りは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。

村上春樹作品を読んだことがある人ならニヤリとすることだろう。このまわりくどい表現は、村上春樹の初期作品あるあるとして、マニアはもちろん、代表作しか読んでいない人でもわかる。

その後も、文体模写芸はこれでもかと続く。

松尾芭蕉なら

麺の細道 から容器 大食いどもが 夢の跡

池上彰なら

今回はなかなかニュースでは取り上げられることのない「カップ焼きそばの作り方」について解説したいと思います。

糸井重里なら

カップ焼きそばは、「適当」に作れるところが、よいところだと思う。

これ以外にも、どこかで聞いたことのあるような、読んだことのあるような文体模写芸が続いていく。その人物のことや文体を理解しきれていなくても、くすりと笑える。

全国大学生活協同組合連合会が2019年2月に発表した『第54回学生生活実態調査の概要報告』によると、読書時間「0」の学生は48.0%だった。1日の読書時間の平均は5年ぶりに伸びて30分(前年比+6.4分)、読書時間60分以上の人が26.7%と前年から8.4ポイント増加するなど明るい兆しもあるが、大学生の約半数が読書習慣なしというのが実態だ。

そんな中で、もしそばは2017年6月に初版2万部でリリース後、すぐに増刷がかかり、2019年10月時点でシリーズ全体で17万部のベストセラーとなっている。文庫化され、最近では電子版もリリースされたほか、台湾版、韓国版と国際展開も進んでいる。出版した宝島社によると、読者の3分の1が10代から20代の若い層。「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本2017」にも選ばれたほか、大学生と本のタッチポイントである大学生協でも売れ行きは好調で、SNSへの表紙の投稿が相次いだ。

なぜ、本を読まないとされる若い世代に受け入れられたのか。著者の一人である菊池良氏と、宝島社の担当編集者九内俊彦氏に話を伺った。

著者の菊池氏はあるとき、読書離れの進む若者世代にも、共通の読書体験があることに気づいた。それが、教科書に載っている「文豪」と呼ばれる人たちの作品だった。インターネットで情報が手に入り、お金や時間をかけて読書をする習慣がなくても、教科書だけは読むのだ。

実際、ツイッターなどのSNSで評判になる、文体や設定を模写したパロディー投稿でも「鉄板」でウケるのは太宰治の「走れメロス」や、芥川龍之介の「羅生門」など、教科書で頻繁に見る作品だ。

文豪のキャラクター化も進んでいる。泉鏡花や芥川龍之介が登場するゲーム「文豪とアルケミスト」(DMM GAMES)や春河35、朝霧カフカが書いた「文豪ストレイドッグス」(KADOKAWA)などが若者にヒットしている。価値観や志向の多様化が進む中、文豪こそが実は共通体験になっている。

文体の模写など、作品を「いじる」投稿は若者も含め、SNS上で盛り上がりを見せる。菊池さんは2015年に村上春樹風の投稿をTwitterに投稿して反響を呼び、テレビ番組の中でも一部、取り上げられたほどだ。

ちなみに、現在、32歳の菊池さんが最初に読んだ村上春樹は「海辺のカフカ」だったという。村上春樹が書かないようなことを、彼の文体でSNSに投稿したら、ウケた、バズった。「面白くて、初めて上下巻読みきった小説でした。文体が格好良く、模写したものも格好良くなるので書いていて気持ちいいです」と語る菊池さん。この「文体模写芸」が売れる素地を感じたという。

もしそばヒットの背景には、ネット文化との親和性の高さがあるが、菊池さん自身ももともとネットを舞台に創作活動を始めている。小学校6年生だった1999年からネットにはまり、日記サイトを開設して情報発信を始めた。一方で読書にものめり込み、図書館の本を貪り読んだ。菊池さんを一躍有名にしたのが「世界一即戦力な男」というサイトである。ちょうど就活の時期に、自分を売り込むためのサイトや動画をアップしたところ評判を呼び、これがデビュー作にもつながったほどだ。

今の若者を菊池さんはどのように見ているのだろうか。「高校生、大学生を中心に『読書垢』をつくる若者に注目しています。『#読了』『#おすすめの10冊』などのハッシュタグでSNS投稿をする読書好きの若者たちがいます。本が好きな彼ら彼女らに届く作品をこれからも作りたいと思っています」と語ってくれた。

また、若者に選んでもらうには、ビジュアルも重要だ。その点、もしそばの「インスタ映え」する表紙もポイントだった。編集者の九内氏によると、ある日、漫画家の田中圭一氏が表紙を描けば、この本は売れるのではないかというアイデアが「おりてきた」という。30万部超えのベストセラーになった「うつヌケ」(KADOKAWA)が売れ始めた頃であり、書店で田中氏の描いた表紙をよく見かけるようになった頃だった。

田中圭一氏の描いた太宰治のイラストは、誰にでもわかるものであり、いわゆる「映える」。書店で手に取りたくなるものになった。装丁家は「JTの「大人たばこ養成講座」などで知られる、寄藤文平氏が担当。初版の帯では若者に人気のあるクリープハイプの尾崎世界観が推薦文を書いた。気づけば最強の布陣による、強い表紙が出来上がっていた。

九内氏によると、狙い通り、ネット書店よりもリアルな書店でよく売れているという。太宰治を描いたイラストは世代を超えて誰にでも伝わる。モノとしての本、ファッションアイテムとしての本の魅力が伝わった結果だと言えるだろう。

これまで見てきたように、「もしそば」ヒットの裏には、「文豪」という共通体験、モノとしての書籍の魅力、何よりつくり手の熱量があった。私も一書き手として、若者に届くものを書くことを諦めてはいけないと勇気をもらった取材だった。

常見陽平(つねみ・ようへい)
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。

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