瀬戸内・芸術の島で学ぶ 過去と持続的成長(渋沢健)コモンズ投信会長

大島の港から船に揺られて30分ぐらいで豊島(香川県土庄町)に到着します。高台に広がる棚田から見渡す海の景観に言葉が失われ、広い敷地の一角に巨大な白い水滴のような建設物が自然と調和しています。「水」をテーマにした豊島美術館です。時が止まったような感覚で日常の邪念から解かれ、静め落ち着かせてくれる空間です。

豊島は現在では世界に誇る美術館がある自然豊かな島ですが、かつては近代工業化社会の負の側面である産業廃棄物の不法投棄に悩まされていたところでもあります。1978年にミミズ養殖による土壌改良という名目で県から認可を受けた業者が、実際には大量の産業廃棄物を持ち込み始めました。住民の反対運動にもかかわらず県は適切な対応をとらず、豊島の自然破壊に加担したと言っても過言ではないでしょう。

住民の長い戦いに転機がきたのは1990年です。香川県ではなく、兵庫県警が廃棄物処理法違反容疑で業者を摘発しました。その後、現状回復を求める住民が公害調停を申請し、2000年に香川県は責任を認め、合意が成立しました。90万トンを超える産廃物の処理が進むなか、農産物や海産物の風評に悩まされる豊島に自然と誇りを取り戻すという意味も込めて、10年に豊島美術館が開館します。

産業廃棄物の搬出は17年に完了しましたが、撤去しきれなかった新たな産廃が18年に見つかりました。現場を訪れると山がすっぽりと削り取られ、汚染された地下水の浄化作業は現在も続いています。アートというきっかけがなければ、自分は豊島にも訪れることなく、産業廃棄物問題に意識を配ることもなかったでしょう。やはりアートは「見えないもの」「見せたくないもの」を可視化する力があると言えます。

大切な経済と社会の調和

今回のフォーラムで改めて学んだのは、経済と社会が調和するサステナブルな成長の大切さです。ESGに関連させるなら大島のハンセン病療養所は社会(S)問題、豊島の産廃は環境(E)問題としてとらえられると言っていいかもしれません。

ノーベル賞を受賞した経済学者ミルトン・フリードマンは「企業の社会的責任とは利益の最大化である」と提唱しました。私自身はノーベル賞受賞者を論破できるほどの学識はありません。ただフリードマンの主張が注目された20世紀と比べると、21世紀はSDGsが示すように先進国・途上国を問わずサステナブルな成長が社会の最優先の事項であるという意識が高まっています。

フリードマンの思想を21世紀の文脈で読み替えると、企業の存在意義とは「利益の最大化」ではなく「価値の最大化」と言えるのではないでしょうか。企業が社会に提供する価値とは株主の価値だけではなく、経営者、従業員、顧客、取引先、社会、そして未来世代など様々なステークホルダーにとっての価値であり、世の中の様々な課題の解決を通じて持続的な成長を実現することです。言い換えれば、地球規模の課題であるサステナブルな成長を実現するには企業の果たす役割が大きいということでしょう。

渋沢健
コモンズ投信会長。1961年生まれ。83年米テキサス大工学部卒。87年カリフォルニア大学ロサンゼルス校MBA経営大学院修了。JPモルガンなどを経て、2001年に独立し、07年コモンズ株式会社(現コモンズ投信)を創業、08年会長就任。著書に「渋沢栄一 100の金言」(日経ビジネス人文庫、16年)など。
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