宴会シーズンは中性脂肪に注意 元凶は酒よりおつまみ
酒好き医師が教える宴会対策(上)
宴会シーズンまっただ中。飲み会が重なると多くの酒飲みが気にするのが、体重、そして脂質ではないだろうか。一般に、酒が好きな人ほど中性脂肪やコレステロールも高そうだと思われがちだが、実際はどうなのだろう。酒ジャーナリストで新刊『酒好き医師が教える もっと! 最高の飲み方』を出版した葉石かおりさんに解説してもらおう。
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年末年始のように飲み食いする機会が多い時期に体重計に乗ると、「ギャーッ!」と叫びたくなることがありますよね。さらに、もっと見たくないのが健康診断の血液検査の数値。中でも中性脂肪とコレステロール値はできたら「見なかったこと」にしたいと思う人も多いのでは?
厚生労働省のホームページを見ると、「アルコール摂取量に比例して中性脂肪は増加します」と怖い説明があります[注1]。さらには「過度のアルコール摂取は脂肪肝の原因になる」とも……。
とはいえ、恥ずかしながら、私は中性脂肪について正しく理解できているのか自信がありません。脂質が増えて、メタボになって、血液がドロドロになり、体に悪そう……というイメージはあるものの、中性脂肪よりコレステロールのほうが悪いようなイメージもあります。
そこで今回は、酒と健康にまつわる最新の拙著『酒好き医師が教える もっと! 最高の飲み方』より、中性脂肪やコレステロール、そして脂肪肝について詳しい栗原クリニック 東京・日本橋の院長・栗原毅さんに聞いた解説を紹介します。栗原さんは、肝臓専門医で、「血液サラサラ」の名付け親でもあります。
コレステロールより中性脂肪のほうが問題?
そもそも、中性脂肪とは何でしょう?
「中性脂肪とは人の体に存在する脂質の一種で、身体活動のエネルギー源になります。体脂肪のほとんどが中性脂肪で、別名『トリグリセリド(TG)』と呼ばれています。主な働きは食べ物が足りないときのエネルギーの貯蔵庫、内臓の保持、体温を一定に保つなどさまざまです」(栗原さん)
なるほど、中性脂肪は体にとって重要な役割を果たしてくれるもの。素人にはコレステロールのほうが厄介で、問題のように思われますが……。
「それは違います。中性脂肪はコレステロールより注意しなくてはなりません。中性脂肪は肝臓で作られるほか、小腸でも作られます。過剰になると小腸の血管からしみ出て、周囲の内臓や血管に蓄積され、いわば内臓脂肪型肥満になります。また血中の中性脂肪が高くなると脂質異常症の一つ『高トリグリセリド血症』となり、血液がドロドロの状態になります。これによって血管が老化し、動脈硬化を加速させ、心筋梗塞、脳梗塞といった重篤な疾患を引き起こす原因になるのです」(栗原さん)
それでは、コレステロールの役割は何でしょうか?
「コレステロールは、細胞膜や神経細胞を作る材料となります。さらに各種ホルモンや胆汁酸の材料としても使われています。コレステロールというと、何となく体に悪いものと思っている方が少なくありませんが、実は体にとってなくてはならない大切な存在です」(栗原さん)
ふむふむ。こちらも大切なものですね。そういえば、コレステロールの「善玉」と「悪玉」の違いは?
「コレステロールに善玉(HDL)と悪玉(LDL)があるのはよく知られていますね。悪玉(LDL)は低いほうがいいと思われていますが、これも必ずしも正しくありません。少々難しい話になりますが、LDLはコレステロールの『運搬役』、HDLはコレステロールの『回収役』で、いずれも必要なものなのです。問題なのは、HDLコレステロールの不足で、LDLコレステロールの値が高くても、HDLコレステロールが高ければ基本的に問題ありません」(栗原さん)
悪玉のLDLコレステロールだけ高いという状態はよくないが、善玉のHDLコレステロールが高くて、善玉と悪玉のバランスがとれていれば大丈夫というわけですね。
中性脂肪が多いと「超悪玉コレステロール」が誕生!
栗原さんによると、さらに怖いことに、中性脂肪が多いと、このHDLコレステロールとLDLコレステロールのバランスが崩れるだけでなく、「超悪玉コレステロール」を生んでしまうとか。
「中性脂肪が過剰になると、HDLコレステロールが減ります。さらにはLDLコレステロールを小型化し、『小型LDLコレステロール』という『超悪玉』を生み出すことも分かってきました。超悪玉コレステロールはサイズが小さいため、血管壁に入り込み、蓄積しやすく、酸化されやすいという特性を持っています。また一般的な悪玉コレステロールに比べ、血管内に長くとどまることから、動脈硬化の進行をさらに加速させてしまうのです」(栗原さん)
超悪玉コレステロール……なんと恐ろしいヤツ。もしかして、酒飲みに多い脂肪肝も、中性脂肪が関係しているのでしょうか?
「大いに関係あります。脂肪肝は血液中の中性脂肪の数値が高くなる前に表れる症状なのです。脂肪肝は肝臓の細胞が中性脂肪をためこんで黄色く膨張した状態を指します。これまで脂肪肝は軽く見られることが多かったのですが、最近では、脂肪肝から『非アルコール性脂肪肝炎(NASH)』に発展することが問題視されるようになりました。これによって肝臓の炎症や壊死を引き起こし、肝硬変や肝臓がんに早く進展することがあるのです」(栗原さん)
それでは、アルコールと中性脂肪の関係はどうなのでしょうか?
「確かに、アルコールを大量に摂取すると、中性脂肪を増やすことにつながると言われています。しかし、アルコールは、適量までなら、むしろ血中の中性脂肪値や脂肪肝などにいい影響を及ぼすのです。私は『アルコール単体では中性脂肪の数値はなかなか上がらない』と考えています」(栗原さん)
栗原さんは、飲酒量と中性脂肪値や脂肪肝などの関係を調べた研究結果を教えてくれました。北海道・苫小牧市にある王子総合病院健診センターで健康診断を実施した男女3185人を対象に、「お酒を飲まない人」「1日当たりアルコール20g未満飲む人」「20~40g未満飲む人」「40~60g未満飲む人」「60g以上飲む人」の5グループに分け、肝機能値や、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪などを調べた結果です。
それによると、中性脂肪の数値はアルコール量が20~40g未満(日本酒なら1~2合程度)であれば、酒を飲まない人とほぼ変わらないという結果が出ています。なお、HDLコレステロールは飲酒量が上がるほど増加、LDLコレステロールは減少する傾向が見られました。
この結果はうれしいものの、「酒飲みは中性脂肪が高いのはなぜ?」という疑問が残ります。私の周りの酒飲みは、健康診断の中性脂肪の値が高い人ばかり。栗原さんにこの疑問をぶつけると、明快な回答が返ってきました。
「最初からポテトサラダを食べちゃうような人は……」
「答えは簡単、おつまみを食べ過ぎているんです。最初からポテトサラダを食べちゃうような人は、たいがい中性脂肪が高いですね。お酒を飲まない人でも、食べ過ぎの人は中性脂肪が高くなりがちです」(栗原さん)
そうか、中性脂肪の元凶は「おつまみ」、要は食べ過ぎだったのですね! 居酒屋に行ってまずポテトサラダを頼む私にとっては耳が痛い限り。
「脂肪と聞くと、脂肪分の多い肉などを想像しますが、中性脂肪は、実は糖質によって増えます。糖質は体の中に入るとブドウ糖となり、小腸で吸収され、血液へと送られます。すると血糖値が急上昇し、血糖値を下げるためにインスリンというホルモンが多量に分泌されます。そして、血液中の糖は中性脂肪となり、肝臓や脂肪細胞に蓄積されるのです。ですから、中性脂肪を下げるには、血糖値が急上昇しないような食事にする必要があるのです」(栗原さん)
糖質のとり過ぎが肥満につながることは知っていたが、中性脂肪とこんなに密接な関係があるとは知りませんでした。しかし、内臓についた中性脂肪を減らすとなると、かなりハードな糖質制限をしなければならないのでしょうか……。
「いえ、糖質は『ちょいオフ』でいいんです。極端な糖質制限にはリスクがある可能性があるうえに、続けにくい。さらには、リバウンドの危険もあります。いつもより意識して少し減らすだけで十分です。日本人の男性なら1日の糖質の摂取量はたいてい300g以上です。目安としてこれを250g程度まで減らしましょう。女性ならば200g程度にしてください。これなら、ごはんの盛りを7、8割と軽めにするだけで実現できます」(栗原さん)
なるほど、これなら続けられそう。なお、普段の食事で400g以上とっている糖質過多の人は、意識的にもう少し減らすとよいそうです。
お酒を選ぶ際も、糖質が少ないものを選んだほうがいいでしょう。「注意したいのは、たっぷりの砂糖と甲類焼酎に漬けて作る梅酒(リキュール類)や、糖質がたっぷり含まれているサワーなどです。一方、本格焼酎やウイスキーなどの蒸留酒単体であれば糖質ゼロです」(栗原さん)
日本酒、ビールなどの醸造酒は糖質がやや多いのですが、その中ではワインは低糖質。それでは、お酒はどれぐらいなら飲んでもいいのでしょうか。
「さまざまな疾患への影響も考慮すると、日本酒なら1合、ビールなら中ジョッキ1杯、ワインなら2杯までが理想的です。ただし、毎日でなければ、中ジョッキ2杯、日本酒なら2合、ワインなら3杯までは許容範囲でしょう」(栗原さん)
中性脂肪が気になる人でも、適量までならお酒を飲んでも問題なく、それより糖質を取りすぎないよう注意することが大切だと分かりました。栗原さんの教えを実践して、毎年の健康診断にのぞみましょう。
[注1]https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-014.html
エッセイスト・酒ジャーナリスト。1966年生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。ラジオレポーター、女性週刊誌記者を経て現職。全国の酒蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。「酒と料理のペアリング」を核に、講演、セミナー、レシピ提案を行う。2015年一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション設立。サケ・エキスパートの育成、日本酒イベントのプロデュースも行う。著書に『酒好き医師が教える もっと! 最高の飲み方』など。
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