存亡ドミノは倒れ始めた? 地球に迫る9の「臨界点」

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/12/14
ナショナルジオグラフィック日本版

海とサンゴは気候変動による激しいストレスにさらされていて、すでに回復が不可能になるレベルのダメージを受けている可能性がある(PHOTOGRAPH BY ALEXIS ROSENFELD, GETTY IMAGES)

地球は緊急事態にあると、気候科学者らが警鐘を鳴らしている。複数の地球システムが連鎖的に「臨界点」を超えることで、地球全体が後戻りできなくなる可能性があるという。

これは「文明の存亡の危機」だと英エクセター大学の気候科学者ティム・レントン氏らは2019年11月28日付けで学術誌「Nature」に寄せた論説に書いている。

地球システムが崩壊すれば、世界は「ホットハウス・アース(温室地球)」状態になりかねない。つまり、気温は5℃上昇し、海面は6~9m上昇し、サンゴ礁とアマゾンの熱帯雨林は完全に失われ、地球上のほとんどの場所が居住不可能になる世界だ。

「臨界点はずっと先のことだろうと思われてきましたが、すでに差しかかりつつあるのです。恐ろしいことです」とレントン氏は言う。

例えば、西南極の氷床は徐々に崩壊が進んでいるが、最新のデータによると、東南極の氷床の一部も同様に崩壊が起きている可能性があると同氏は説明する。両方の氷床が融解すれば、今後数百年で海面は7mも上昇する。

地球の気候に多大な影響力をもつ要素のうち9つが、後戻りできない臨界点に近づいている。そのうちの2つが西南極と東南極の氷床の融解であり、他にはアマゾンの喪失、広範囲での永久凍土の融解などがそうだ。

かつての理論は今や現実に

臨界点の概念は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって20年前に導入された。ひとたび臨界点を超えると、一気に不可逆的な変化が起こる。斧で20回打っても耐えて立っていた森の大木が、21回目の打撃でついに倒れるようなものだ。

かつては、気候が臨界点を超えるのは5℃以上の温暖化が起きたときだと考えられていた。しかしIPCCは2018年の報告書で、それが1~2℃の温暖化でも起こりうると警告した。気温がわずかに上昇するたびに、30の主要な臨界点のいずれかを超えてしまうリスクが高まる。1℃温暖化した現時点で、すでに9つの臨界点を超えようとしているのだ。次の斧、つまりさらなる気温上昇で何が起きるかは、誰にもわからない。

各国がパリ協定で約束した温室効果ガス排出量の削減に取り組んだとしても、気温はさらに3℃以上も上昇すると予想されている。

11月26日に発表された国連の報告書によると、世界の炭素排出量は年々増加していて、気温上昇を1.5℃程度に抑えるためには2030年までに毎年7.6%ずつ排出量を減らす必要があるという。

太陽からの熱エネルギーを受けた大気や海洋、氷床、森林などの生態系、土壌は、地球の熱循環に影響を及ぼす。それらは相互作用しているため、いずれかの要素が大きく変化すれば、ほかの要素にも影響が及ぶ。21回目の斧で倒れた森の木は、ほかの木を巻き込み、ドミノ倒しを引き起こすかもしれない。

北極から全世界へ広がる影響

科学者たちは今、別々の臨界点が互いにゆっくりとドミノ倒しを始めている可能性があると警告する。例えば、北極海では過去40年間、夏になるたびに海氷が失われているが、そのせいで熱を吸収しやすい水面の面積が増え、熱を反射する氷が40%も減ってしまった。その結果、北極地方の温暖化が進み、永久凍土が融解することで、大気中に二酸化炭素やメタンが放出され、それがさらなる地球温暖化を引き起こしている。

また、北極地方の温暖化により、木を枯らす昆虫が猛威を振るったり森林火災が増加したりした結果、北米の北方森林が広い範囲で枯れた。これらの森林は、今では吸収する以上の二酸化炭素を放出している可能性がある。

さらに、北極の温暖化とグリーンランドの氷床融解により、北大西洋に流入する淡水の量が増えている。そのことが、近年「大西洋南北鉛直循環」(AMOC)という海流の流速が15%遅くなった原因になっている可能性がある。AMOCは熱帯地方から熱を運んで、北半球を比較的温暖に保つ役割を果たしている海流だ。

臨界点超えの多くはスローモーションで起こる可能性が高いという。例えば、南極の氷床の崩壊は数百年から数千年かけて進行するだろう、とノルウェーの国際気候センターの研究ディレクター、グレン・ピーターズ氏は説明する。「臨界点の多くは、どこが始まりなのかがはっきりしません」。なお氏は今回の論説には関わっていない。

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