伝説のトキワ荘復元 4畳半に甦る巨匠漫画家の青春編集委員 小林明

押しかけ相談・議論・三題話……「恐ろしい努力家の怪物たち」

新書版「トキワ荘物語」に収録されているそれぞれの自伝などによると、手塚さんは部屋にトイレがないので窓から立ち小便をして怒られた記憶があるという。その後、富山から上京したばかりの藤本さんと安孫子さんに「自分はトキワ荘を出るから、代わりに入居したら」と勧めた。お金がない2人のため、敷金3万円は手塚さんが負担したままにしておいたそうだ。

よこたとくおさんが暮らした「トキワ荘」2階20号室の様子を示すイラスト(ヒアリングや写真などから作成)

56年に入居した赤塚さんと石ノ森さんは銭湯代を節約するため、炊事場の流しに水をためてよく行水していた。映画好きだったので2人で一緒に映画館に入り浸っていたらしい。赤塚さんはアイデアや作画で行き詰まると、先輩や同僚の部屋に押しかけては熱心に相談していた。「もしトキワ荘の住人にならなかったら、漫画をかいていなかったかもしれない」(赤塚さん)と振り返っている。

つのださんも「トキワ荘」の仲間たちと夜が明けるまで議論に明け暮れていた。特に安孫子さん、石ノ森さんらと三題話を出し合いながら、話題の展開力や構想力を磨き合う日々を送っていたという。「表面はダラケたようにみえながら、本質は恐ろしい努力家の怪物たちが集まっていた。みんな恐ろしくも尊敬できるライバル」(つのださん)と回想している。

自己研さんを積むうえで、同世代のライバルの存在がいかに大切かが分かって興味深い。

屋根や壁、玄関、炊事場などを再現、4畳半部屋もリアルに復元

計画は豊島区によって進められている。場所は「トキワ荘」があった場所から200メートルほど西方にある南長崎花咲公園に鉄骨2階建ての再現施設「トキワ荘マンガミュージアム」(建築面積約300平方メートル、延べ床面積約560平方メートル)を建設する。当時の時代の雰囲気を伝え、トキワ荘を訪れる感動も追体験してもらうため、赤みを帯びた屋根や外壁の色調や質感のほか、トイレ、炊事場、玄関、階段、廊下など生活感が漂う細かい雰囲気もリアルに再現する。若手漫画家たちが暮らした2階の部屋については、18・19・20号室を写真やヒアリングをもとにできるだけ当時に近い状態で再現する。

「トキワ荘」玄関(写真は向さすけさん提供)
「トキワ荘」玄関の様子を示すイラスト(ヒアリングや写真などから作成)

このほか来場者が漫画家になりきって、SNS(交流サイト)向けなどに写真撮影できるスペース(16号室)、ペン入れなどを体験できるワークショップスペース(17号室)、「トキワ荘」の基礎知識や時代背景を説明する展示コーナー(14・15号室)も設ける。1階には「トキワ荘」に関連する漫画家の関連図書約1200冊を置いたり、漫画家のインタビュー映像を流したりする「マンガラウンジ」のほか、「企画展示室」も設ける。親子連れや往年の漫画ファン、海外からの観光客らの来場を想定している。専門の学芸員も常駐させる予定だ。

SNS撮影や図書コーナーも 東京五輪にらみ池袋とセットで

「東京五輪に向けて外国人観光客がさらに増えるだろうし、漫画やアニメ、サブカルチャーのファンが集まる聖地として池袋の認知度が高まっており、再現した『トキワ荘』も魅力的な観光・文化の名所としてセットで楽しんでもらいたい」(豊島区文化商工部)。来年2月に竣工、3月22日のオープンを予定している。整備費用は約10億円(うち3億円超は寄付で賄う見通し)。入館は無料だが、特別に企画・展示するイベントについては有料にする場合もある。開館時間は午前10時から午後6時まで。月曜日や年末年始などは休館とする。

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