築いた資産どう使う 退職後は運用より取り崩し方重要

日経マネー

毎月分配型投信が重要な理由

ここ2年ほどの間に、そうした目線が少しずつ浸透してきたようです。金融庁が発表した2017年の金融行政方針には「取り崩し」の表現が加えられ、18年の高齢社会対策大綱でも初めて資産の「取り崩し」に言及しています。さらに私も委員を務めさせていただいた金融審議会市場ワーキング・グループでの議論でも、この「資産の取り崩し」が何度も取り上げられました。

(イラスト:平田利之)

「取り崩し」を重視する変化は金融業界にも広まり始めています。

一つの証左が、毎月分配型投資信託への理由なき批判の沈静化です。数年前までは、「毎月分配型投信は『悪』だ」と公言していた専門家も多くいました。その理由の一つに「毎月分配型は元本を取り崩す『タコ足』だからだ」というものがありました。

もちろん現役世代の資産形成において、取り崩し――つまり資産の売却は「老後資産を作る」という目的に合致しません。ですから、現役世代には推奨できない考え方です。しかし、そもそも資産を取り崩す必要性のある世代にとっては、部分売却である資産の取り崩しは当然のことです。

投信で運用しながら取り崩して生活費に充当することと、銀行預金から引き出して生活費に充当することに根本的な違いはありません。「毎月分配型投信はタコ足だから駄目」だとすれば、銀行預金から資金を下ろして使うのも「タコ足だから駄目だ」となるはずです。

もちろん、毎月分配型投信は分配金がなかなか引き下がらない点で、本コラムの第4回で紹介した「収益率配列のリスク」を抱えており、予想以上に元本の毀損が進む懸念があります。それは大きな問題点ですが、それと「タコ足だから駄目だ」という議論とは全く異質なものです。

うれしいことに、やっとそうした理解が進みつつあります。資産運用という手段が目的によって異なるという理解こそが重要なのです。

野尻哲史
フィデリティ退職・投資教育研究所所長、フィンウェル研究所所長。一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て2006年にフィデリティ投信に入社。07年からフィデリティ退職・投資教育研究所所長。19年にフィンウェル研究所を立ち上げ「複業」をスタート。アンケート調査を基にしたお金に関する著書・講演多数

[日経マネー2020年1月号の記事を再構成]

日経マネー 2020年1月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP
価格 : 820円 (税込み)


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