次の10年を勝ちきる日本企業 有力コンサルの予測は『BCGが読む 経営の論点2020』

「新しい競争ロジック」のもう一つのテーマがエコシステム(生態系)です。業界の垣根を越えた多くの企業がさまざまな形で手を結ぶネットワークをエコシステムと捉える視点です。20年代は「つながること」を無視したら強いビジネスは生まれません。ここで重要な点は、エコシステムがこれまでの「協業」という概念とは異なることです。「協業」は、同一業界の1対1の契約に基づく関係が一般的でした。例えば、自動車業界におけるOEMとサプライヤーの関係です。本書はエコシステムの特徴を次の下りで解説します。

これに対して、エコシステムでは「オーケストレーター」と呼ばれる企業を中心に、複数の業界にまたがる数社から数十社にのぼる参加企業が、契約だけでなく共通のデータをベースとしたさまざまな協業の形でつながり、付加価値の向上や競争力の強化を図っていく。顧客接点が拡大し、かつ、共有されるデータが多いエコシステムになればなるほど、参加企業はより高い付加価値を創出することができる。
(2 エコシステム戦略――デジタルが変える「協業」のルール 53ページ)

各テーマを読み進めながら、読者のみなさんは「自分自身が変革にどう関わっていけばよいのか」を考えさせられます。

例えば日本企業は、エコシステムとどう関与すればよいのか。エコシステムに「飲み込まれる」のではなく「自ら入っていく」姿勢が重要だと本書は指摘します。一歩前進して、「勝ち組」のエコシステムに入ったとしましょう。それで満足というわけではありません。強いエコシステムで個別企業の経営の安定が確保されるわけではないからです。システムのモニタリングが不可欠です。必要に応じて自社ビジネスで大型投資の決断する局面も出てくるでしょう。さらに、一つのエコシステムを止める、あるいは複数のエコシステムを同時活用するという選択肢も出てきます。

ミッション、ビジョン、パーパスの統合

著者が整理した経営課題の中で、重要な視点の一つが「企業のあるべき姿の再定義」です。「ミッション」と「ビジョン」の重要性についてはよく知られていますが、著者は加えて「パーパス」という概念に着目します。

「ミッション」は任務、伝道、布教などの意味を含み、目指す状態に向けて何を行うべきかの方向性、すなわち「What」を定義する。「ビジョン」は将来の構想・未来像であり、企業が理念とし目指す状態である「Where」を定義する。それらに対して「パーパス」は、なぜ、その企業が世の中に存在するのかという意義を問う「Why」を結晶化したものである。
言い換えれば、パーパスは「製品をつくり・売る、サービスを提供することを超えて、わが社は、なぜ社会で存在する価値があるのか」「もしわが社が消滅したら、世界はかけがえのない何を失ってしまうのか」といった企業固有の存在意義を包含する。これら3つの関係性でいえば、パーパス(why)の発揮に向けて、ビジョン(where)として目指す状態を定義し、その実現に向けた道筋としてミッション(what)を明確化する流れとなり、パーパスは最も上位の基点となる概念といえる。
(9 世界の先端企業が重視する「パーパス」――「存在意義」を基軸とした企業変革 238ページ)

不確実性の時代には自分の足元が揺らぎます。企業にとっては事業基盤が流動的な状態になります。そんな時代だからこそ、常に「自分たちの存在意義は何なのか」「自分たちは何をするべきなのか」という基礎に立ち返らなければ、限りなく漂流しかねません。これは企業という組織にとっても、個々のビジネスパーソン個人にとっても同じです。「自分の存在価値は何か」を常に問い続ける姿勢が、良い仕事となってあなた自身に返ってくることでしょう。そんな気付きも与えてくれる一冊です。

編集者からのひとこと 日本経済新聞出版社・赤木裕介

本書のあとがきを執筆された、BCG日本代表の杉田浩章さんとお話していたときのこと。私が「2020年はオリパラが終わり、日本の景気も大きく腰折れするのではないでしょうか?」と尋ねたところ、「いや、短期的には少し停滞するかもしれないが、実は日本には追い風が吹いていると思っています」という意外な返答が返ってきました。

その理由として本書のあとがきでは、(1)デジタルテクノロジーの進化が、日本の得意とする領域に入ってきたこと(2)「社会との共生」という日本人に受け入れられやすい価値観が、一般的になってきたこと(3)働く場としての日本が、世界から魅力的なものとしてとらえられていること――という3つを挙げています。

日本の将来には悲観的な見方が多いですが、視点を少し変えてみると、まだまだチャンスはあるのかもしれません。本書で述べられているような構造変革にチャレンジしつつ、この追い風に乗ることで、次の10年を少しでも明るいものにしていきたいものです。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。掲載は原則、隔週土曜日です。

BCGが読む 経営の論点2020

著者 :
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,760円 (税込み)

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