温かな麦ごはん、無罪の支え 村木厚子さん食の履歴書

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厚生労働事務次官を務め、2017年に津田塾大学客員教授になった(山田麻那美撮影)
厚生労働事務次官を務め、2017年に津田塾大学客員教授になった(山田麻那美撮影)

厚生労働事務次官を務めた津田塾大客員教授の村木厚子さん。官僚、そして母として充実した日々が冤罪(えんざい)事件によって暗転した経験を持つ。164日間に及んだ拘置所暮らしは家族や知人の励ましに加え、食に支えられた。

2009年6月、障害者団体向け郵便料金割引制度の悪用にからむ事件で逮捕。偽造証明書の発行を指示したと疑われた。心底ショックだったが、悲嘆に暮れていたわけではない。「どうしたら真実を説明できるか」。取り調べを受けるのは、緊張の連続だった。

取り調べが終わっても勾留は11月まで続いた。その間、生活のリズムを守ったのが食事だ。午前7時半に点呼後、朝食をとる。昼食は正午、夕食は午後4時ごろから。素早く食べないと下げられてしまうため、畳2畳ほどしかない独居房で黙々と食べた。

食事の内容に特段不満はなかった。「コッペパンとゆで卵、ぜんざいなど不思議な組み合わせもあったけれど、平均点が高かったです」。温かいまま出され、栄養バランスがよい。例えば7月のある日。朝には魚のフレークとキュウリの漬物、サトイモと油揚げの味噌汁が出た。昼食はマグロの竜田揚げ、青菜のおひたし、切り干し大根の煮物。夕食は焼き肉、キュウリの塩もみ、モヤシのナムル、スイカ――といった具合で、一汁三菜の場合もある。

秋にはサンマの丸焼き、祝日におはぎやまんじゅうが出た。入浴は週2~3回、廊下を歩くときはよそ見してはいけないなど自由が制限され、外界から閉ざされた日々。食事は移り変わる季節を感じる手段だった。

なかでも気に入ったのが麦ご飯だ。麦の食感がよく、温かくておいしい。「おなかの調子がよかったのは麦ご飯のおかげかもしれません」。差し入れの果物も楽しみの一つだった。持ち込める食品は差し入れ店で買ったもののみ。包丁が使えないので、手でむけるかんきつ類などが生活を潤してくれた。

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