背中を押した、珍味市場への危機感

売れるかどうかわからない時点で、小一社長は工場を新設するなど設備投資の決断もしている。「チーズ鱈」の商品力には、それだけ自信を持っていたのだろう。ちなみに、開発の中断を指示した「チーズいか」に関しては、西村氏によれば「イカが変色する問題は現在に至ってもメカニズムが解明されておらず、克服できていない」という。「チーズ鱈」の開発にかじを切るとともに、「チーズいか」の開発を早々に断念したことに関しても、小一社長に先見の明があったといえる。

小一社長が思い切った決断をした背景には、強い危機感もあったと、西村氏は説明する。

「チーズ鱈」を開発した当時は珍味市場の先行きに危機感があったという

「珍味市場は当時、すでに確立してはいたものの、さきイカやイカ燻製など、ありきたりの商品も多くなっていました。真似しやすいこともあってか、競合メーカーが増え、価格競争にも陥っていました。加えて、食の多様化・国際化という環境変化が大きかった。そんななか、いつまでも昔と同じような珍味をつくるのではなく、これまでの商品の殻を破り、新しい視点からの商品づくりをしなければ、という危機感は大きかったと思います」

危機意識を背負い、食の多様化・国際化を求める消費者ニーズにこたえた結果、「チーズ鱈」は社内の予想をはるかに超える大ヒット商品になったということだ。なとりの年間売上463億円(2019年3月期)のうち、「チーズ鱈」に代表される酪農加工製品は、約2割の80億円を売り上げている。

発売から40年近くが過ぎ、現在は小一社長に代わり、光男氏の三男で三代目の三郎氏が社長に就任している。「チーズ鱈」のバリエーションも広がった。タラシートと組み合わせるプロセスチーズは当初、乳業メーカーから買っていたが、現在は国内外からナチュラルチーズを取り寄せ、自社でブレンドし製造している。

工程に関しても、生産性を上げる工夫を重ねた結果、連続で製造できるしくみの独自開発に成功した。「イカ」から「タラ」へという、発想の転換が生んだロングセラー商品「チーズ鱈」は今も、同社流のイノベーションで熟成を重ねている。

(ライター 曲沼美恵)

(下)珍味とおつまみは違う 「チーズ鱈」進化の四半世紀 >>

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