2019/12/6

乳酸菌で免疫細胞に活

もちろん、発酵食に含まれる酸や食物繊維だけでなく、乳酸菌そのもののなかにも、腸を介して免疫力を高め、風邪やインフルエンザにかかるリスクを下げる可能性を持つ菌がいる。

また、腸には特別な免疫器官がある。小腸下部にある「パイエル板」というリンパ小節が集まった組織だ。ここでは、腸管を通過する病原体や異物を取り込み、その下で待機するマクロファージや樹状細胞といった免疫細胞に情報を伝え、有害な侵入者に備えてスタンバイさせる。いわば、免疫細胞を教育する学校のような器官といえる。

「乳酸菌の中には、パイエル板に取り込まれると、免疫細胞の数や働きを効果的に高めるものがある。パイエル板では死んだ乳酸菌もうまく役立てることができるので、必ずしも生きて腸まで届く必要がない場合もある。こういった機能が確認された乳酸菌配合食品が今日では多数販売されている」と長く乳酸菌の研究をしてきた東北大学の斎藤忠夫名誉教授はいう。

<パイエル板に取り込まれた乳酸菌が、免疫細胞に活を入れる>

パイエル板上部にあるM細胞は腸管内を通過する様々な物質をパイエル板内に取り込む。その下で待つマクロファージなどの免疫細胞は取り込まれた物質とその特性を覚え、有害物質に対する防御法を習得する。乳酸菌の中には、その菌の細胞壁や作りだす多糖などがパイエル板から取り込まれることで、免疫細胞の数を増やしたり、活動を高めたりする物質を持つものが多数いることがわかってきた。

例えば、ハウスウェルネスフーズが研究・開発した乳酸菌L-137は死んだ状態で免疫を調整することが確認されている菌のひとつ。表面にあるリポテイコ酸という細胞壁成分が免疫力を強化するカギだ。「リポテイコ酸は、乳酸菌L-137の表面に産毛のようにたくさん生えている。乳酸菌L-137の免疫賦活作用はこれを取り除くと大幅に低減してしまうため、免疫細胞はリポテイコ酸を認識して活性化すると考えている」と同社機能性事業本部の山西智大研究員。そのため、乳酸菌L-137を商品化する際は最もリポテイコ酸が多くなるように処理しているという。

日ごろストレスが多いと感じている男女78人を2群に分け、一方に乳酸菌L-137を、もう一方には偽成分を12週間摂取してもらい、その間の上気道感染症(風邪)の発症件数と風邪薬の使用日数を比較した。結果、乳酸菌L-137をとった群では、偽成分群に比べ風邪の発症が抑えられた(グラフ)。また、風邪を引いた人でもその発症日数や重症度、風邪薬の服用日数が減少した。(データ:J Nutr Sci. 2013; 2: e39.)

明治が長年研究しているR-1乳酸菌は菌が作るねばねばした多糖が免疫細胞の働きを高めることが解明されている。キリンホールディングスのプラズマ乳酸菌や、コンビのEC-12菌、ニチニチ製薬のFK-23菌などは、菌そのものが小さく、パイエル板からたくさんとりこまれることで免疫力を高めるという。

これらの菌ではいずれも、免疫細胞の働きが高まるだけでなく、動物試験やヒト試験で風邪やインフルエンザの感染防御作用が確認されている。

「こういった乳酸菌は、薬ではないので即効性はないが、継続してとれば風邪やインフルエンザに対抗する免疫力の底上げ効果は期待できる」と斎藤名誉教授は話す。

発酵食品や食物繊維、乳酸菌そのものなどを日々の生活に取り入れて、冬の季節の感染症リスクを下げよう。

(ライター 堀田恵美、イラスト チブカマミ)

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