実はゴムだけじゃない タイヤも脱プラスチックの苦闘
歯ブラシ、タイヤ、たばこ、靴――使い勝手が良く、比較的安く作れるプラスチック製品。しかし、奇跡の物質とも呼ばれるプラスチックが今、地球全体の問題になっている。ナショナル ジオグラフィック2019年12月号では、私たちの生活に欠かせないプラスチックの現状と、地球を守るために、プラスチックへの依存をやめる方法はないのかをリポートしている。
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靴のように、ほかの素材と組み合わせて使われていると、再利用が難しかったり、不可能だったりする。世界には、プラスチックが再利用も、焼却も、埋め立てもされない場所も多い。
廃棄されたプラスチック製品は川や海へと流れ込み、マイクロプラスチックという微細な破片になる。大小さまざまな海の生物がこの破片を食べ、人間もまた海塩に混ざった破片を口にしている。それが人体にどんな影響を及ぼすのかは、まだわかっていない。
さらに、私たちはナノプラスチックという、より微細なプラスチックの粒子を吸い込んでいる。風に運ばれ、雨や雪に混じったこうした粒子が、近年、辺境の山頂や北極圏でも見つかっている。奇跡の物質は、今や悪夢のもととなった。
プラスチックの害をなくして、この素材を有効活用することが、ますます差し迫った課題となっている。この半世紀、環境保護活動家たちはプラスチック製品を「減らし、再利用し、リサイクルすべきだ」と訴えてきたが、プラスチックの製品や梱包材を販売する企業にとって、そうした取り組みにはメリットが少ない。リサイクルには複雑な工程とコストが必要な場合が多いからだ。だが、プラスチック汚染は今や世界規模で喫緊の課題となり、人々の関心も高まっている。
人々の価値観に変化が起ころうとしている兆しもある。プラスチックごみが、私たちの不安をかき立てるようになったのだ。プラスチックを使わない方法を模索する起業家たちもいる。
現代の生活では、さまざまな場面でプラスチック製品が使われていて、それぞれ違う対策が求められる。問題を解決するためのヒントも、製品が誕生した背景も考える必要があるだろう。
例えば、タイヤだ。タイヤは、1909年にプラスチック製品が登場している。日頃、タイヤを使っていても、プラスチック汚染の原因の一つとなっていることまで知る人は少ないだろう。
タイヤは道路を走行する際、摩擦により合成ゴムの破片をまき散らす。合成ゴムは石油を原料とするポリマー(高分子化合物)で、こうした破片は雨が降ると道路から河川へと流れ込むことがある。ある推計では、海に流入するマイクロプラスチックのうち、タイヤが28%を占めるという。
ゴムはかつてゴムの木の樹液だけで作られていたが、車を運転する人が増えるとゴムの需要も急増した。1909年、ドイツの化学者フリッツ・ホフマンが初めて商業用の合成ゴムを開発し、タイヤの原料として使われるようになる。31年には、米デュポン社が合成ゴムの大量生産を始めた。
現在、タイヤの原料は天然ゴムが約19%、合成ゴムが24%を占め、さらに金属やほかの素材が使われている。一般的に使われるラジアルタイヤは、数十年前からデザインがほぼ変わっていないが、近年、環境に配慮したタイヤの開発が進められるようになった。米ミネソタ大学が率いる研究チームは、樹木や草、トウモロコシなどの天然素材を使って合成ゴムの主原料を作る方法を発見した。
タイヤの原料からプラスチックを完全に排除することは難しい。しかし、路面を現在よりなめらかにし、なおかつ滑りにくくすることはできるかもしれない。また、マイクロプラスチックを含んだ雨水が海に流入する前に回収する方法もあるだろう。
タイヤの問題が認識されるようになったのはごく最近で、解決に向けた研究が始まっている。
(写真 ハナ・ウィテカー、文 ティック・ルート、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック日本版 2019年12月号の記事を再構成]
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