水深4000メートル 最北の熱水噴出孔はまるで異星

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/12/6

北極海で熱水噴出孔が見つかった

海底の熱水噴出孔は、大まかに言って次のような過程で形成される。地球の地殻に開いた亀裂に海水が染み込んで、その下にある溶岩と出会う。ドロドロに溶けた岩石は塩水を熱して化学反応を起こし、地殻にできた穴を通って海底に噴出する。鉱物を豊富に含んだ超高温の海水が次から次へと湧き出て、暗く冷たい深海にすむ生物に熱とエネルギーを提供する。熱水噴出孔の周囲にしかみられない巨大なチューブワーム、二枚貝、目が見えないエビ、微生物などだ。

北極圏を覆う氷に黒い道筋をつける砕氷船クロンプリンス・ハーコン号(PHOTOGRAPH BY LUIS LAMAR, AVATAR ALLIANCE FOUNDATION)

科学者たちがこのガッケル海嶺で熱水噴出孔を探すために初めて調査に訪れたのは、2001年のことだった。そのときは、海底近くでよどんだ水の層が発見され、引き揚げた岩石サンプルからは活動を停止したチムニーの残骸も見つかった。いずれの観察結果も、ブラックスモーカーの存在を示唆している。

2014年に第2回目の調査が実施され、ジャーマン氏らは砕氷船ポーラースターン号に乗って、同じ場所へ戻った。この時は、熱水噴出の痕跡を海中で探し、そこから噴出孔のありかを突き止めようとした。調査も終わりに近づいたころ、高解像度カメラを深海へ沈めた。港へ引き返す予定時刻の2時間前になって初めて、カメラは小さなチムニーの姿をとらえた。数枚の写真の端をかすめるようにして写り込んでいたのだ。

しかも、冷たい海水から検出された噴出孔の痕跡は、それよりはるかに大きな何かが海底に隠れていることを示唆していた。そこで調査チームは今年、より広い観点からオーロラ熱水噴出孔フィールドを調査することにした。全体的な構造はどれほどの範囲に広がっているのか。どのような化学反応が起こっているのか。噴出孔の周囲に深海の生態系はあるのか。もしあるとすれば、どのような生物がすんでいるのか。

そして宇宙生物学者らも、地球外生命を探すための手がかりを得るため、船に同乗した。

次々にアクシデントに見舞われる

ところが、今年は船が港を離れる以前から問題に直面した。まず、高解像度の海底探査用カメラ「OFOBS」が、当初誤って別の極地探検の積み荷に入れられてしまった。さらに悪いことに、ウッズホール研究所の潜水艇「ネレイド・アンダー・アイス(NUI)」も、海中で危うく行方不明になるところだった。

クロンプリンス・ハーコン号から海へ降ろされる潜水艇ネレイド・アンダー・アイス(NUI)(PHOTOGRAPH BY LUIS LAMAR, AVATAR ALLIANCE FOUNDATION)

NUIは250万ドル(約2億7000万円)を投じて最新技術を結集した遠隔操作型潜水艇で、大きさはミニバンと同程度。1回の充電で海中に半日ほど滞在できる。船から40キロ以上離れ、水圧に押しつぶされることなく約5000メートルまで潜水が可能で、分厚い氷の下でも機能する。

機体は明るいオレンジ色で、無人で海へ潜る。研究者らは送られてくるライブカメラ映像を見ながら、遠隔操作で海底の生物を採集したり、試験管で堆積物をすくい取ったり、熱水噴出孔から噴き出る硫黄の噴煙に調査用プローブを直接差し入れることも可能だ。

ところが、オーロラ海山に到着してから2日後、NUIは海中に潜ったまま行方がわからなくなった。目的の深さまで近づくと、システムがひとつずつ消えてしまったのだ。エンジニアたちはNUIを引き揚げようとして、機体に搭載した重りを解放し、浮力を回復させる安全システムのスイッチを入れたのだが、NUIは浮き上がることなくそのまま動きを止めてしまった。NUIの深度を示す折れ線グラフは、まっすぐな線を描いたまま画面の右から左へただ流れていった。

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