発見!子ライオンの希少ミイラ ファラオのペットか

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/12/9
ナショナルジオグラフィック日本版

生後約8カ月の子ライオンのミイラ(PHOTOGRAPH COURTESY SUPREME COUNCIL OF ANTIQUITIES OF EGYPT)

エジプト、カイロ南郊にあるサッカラ遺跡で、子どもと見られるライオンのミイラ5体が発見された。発見場所であるサッカラ遺跡のブバステイオン墓地は、ネコのミイラの地下共同墓地として知られている。

エジプト考古最高評議会が組織した考古学者チームの発表によると、ミイラにされた子ライオンは、いずれも体長90センチほどで、生後約8カ月と見られる。多数のネコの木像や青銅像のほか、コブラやワニを含む他の動物のミイラとともに発見された。おそらくエジプト第26王朝(紀元前664年~前525年)のものだろうと、考古最高評議会は述べている。

ライオンは特別な存在だった

現在のエジプトで、ライオンの群れが歩き回るところを想像するのは難しい。だが紀元前1000年頃までは、この大型ネコ科動物は当たり前のようにナイル川の岸に寝そべっており、王族のペットとして宮殿で飼われることすらあった。

古代エジプトでは、ライオンは太陽とファラオ(エジプト王)、つまり生死を司る最も強力な要素と結びついていた。やがてエジプトが乾燥し、群れが南へと移動した後も、ライオンはエジプト文化において特別な存在であり続けた。

「古代エジプトの図像表現において、ライオンは非常に大きな役割を果たしていました」とオーストラリアのシドニー大学ニコルソン博物館で動物ミイラ調査プロジェクトに携わるエジプト学者、コニー・ロード氏は説明する。「ライオンは王権の象徴である一方で、イスやベッドのような日用品のデザインにも使われました。これは純粋に飾りだったのかもしれませんが、魔術的な意味があった可能性もあります」

古代エジプト人は、何百万体もの動物のミイラを作って埋葬した一方で、ライオンのミイラは今回の発見までたった1体しか見つかっていなかった。研究者らは長年、これを不思議なことと考えていた。

ライオンのミイラはなぜ珍しいのか

古代エジプトにおいてライオンは、どう猛な野生動物として畏れられ、危険と守護の両方を象徴する特権的な地位を与えられていた。ファラオは絶大な力を誇示するためにライオン狩りを行ったことが知られており、なかでもアメンホテプ3世は、即位から10年間で102頭ものライオンを仕留めたとされる。

また、ペットとして王宮などで飼われており、ラムセス2世やツタンカーメンの傍らにライオンが座る絵も残っている。ギリシャの著述家アイリアノスの有名な記述によれば、彼がサッカラを訪ねたときに見た神殿のライオンは、歌の演奏まで付く中で、餌として与えられた雄牛を食べたという。