東大と京大、経済学部100年 定年や給与・入試見直し

100年の間に、経済学自身も大きく変わりました。東大ではマルクス経済学と現在の標準的な経済学に当たる「近代経済学」が長く拮抗してきました。旧ソ連の崩壊後、マルクス経済学を専攻する人が減る一方、新分野が続々と生まれています。東大の岡崎哲二教授は「経済学は理論と実証、経済史を柱とする総合的な学問で、広い視野を提供できる」と強調します。100年後、経済学はどんな学問になっているのでしょうか。

渡辺努・東大経済学部長「実験と制度設計、ますます重要に」

東京大学と京都大学が経済学部を創設してから今年で100年。日本の経済学の変遷と、今後の展望を東大経済学部長の渡辺努教授に聞きました。

――1919年に学部が発足した当初、経済学はどんな学問だったのでしょうか。

渡辺努・東大経済学部長

「東大は創立翌年の1878年、文学部の中に『経済学』の講座を設けました。美術史家・哲学者のアーネスト・フェノロサが講師の一人で、古典派経済学者のジョン・スチュアート・ミルの著作を教材にしたそうです。その後、経済学の講座は法学部に移りました。日本の財政や商業を取り上げる講座が生まれ、実学・実務教育を重視していました。経済学部が発足した当初は、実務を教える学部という色彩が濃かったのです」

「その後、急速に戦争の足音が強まり、国のあり方や統制の方法を考える『国学』を奉じる学者が現れます。一方、マルクス経済学を中心に社会科学としての経済学を追求する学者も台頭し、両者が対立する構図が生まれました。反対勢力は軍に目を付けられ、逮捕されるといった事件が起きました」

――終戦後、どう変わりましたか。

「終戦で国学は消え、実学も下火になりました。社会科学を追求する学者たちが中心となったのです。マルクス経済学が大きな柱でしたが、『近代経済学』と呼ばれる現在の標準的な経済学の源流となる経済学も入ってきます。それ以来、経済学部では、マルクス経済学と近代経済学が二大勢力として拮抗してきました」

――ビッグデータ時代を迎え、マイクロデータを活用した実証分析に携わる経済学者が増えています。

「データ分析や実験を柱にした研究が圧倒的に多くなっているのは確かです。かつては『こう仮定すれば、こういう結論が出ます』と数式や論理を展開する理論経済学が隆盛で、『べき』とか『はず』という言葉をよく耳にしました。ところが、『その仮定は正しいのですか』と質問すると『よく分かりません』といった、やり取りがありました。色々な事例から、現実に沿わない仮定に基づく理論にはあまり有効性のないことが分かってきました。現在は、理論経済学者も『役に立つ理論』という目標を掲げ、現実の大事な部分を捉え、データによる検証が可能な理論を構築しようとしています」

――今後はどんな展開が考えられますか。

「50年前にはなくて、今ある研究のスタイルは、『こういうことをやったら、こういう結果が出た』という因果関係をデータから上手に拾い出す研究で、政策の効果を浮き彫りにできます。さらにこれを進め、『こういうものを作るには、どうしたらよいか』を次のステップとして考え始めています。ミクロ経済学のメカニズムデザインが一例です。例えば、臓器移植やオークションで、みんながハッピーになるにはどんな仕組みがよいのかを考えます。経済学では実験と制度設計がますます重要になっているのです」

「これは自然科学と発想が似ています。自然科学では実験をしながら『こういうモノを作るにはこうしたらよい』と考えるのですが、経済学でも同じような発想が生まれています。ただ、私はさらにその次があると考えています。自然科学の世界では、例えば自動車の自動走行に人工知能(AI)を搭載します。事故が発生したときに右にハンドルを切ると学生の集団、左には高齢者の集団がいるとき、どちらにハンドルを切るかを事前にプログラムする必要があります。この意思決定は、民族や宗教などによっても異なるでしょう。ここがAIの最大の悩みです。人間が何をしたいのかが分からないので先に進めないのです」

――経済学はそうした問題に対応できるのでしょうか。

「経済学は人間の幸せとは何だろうかとか、経済格差はないほうがよいといった問題をずっと考えてきた学問です。社会的選択の理論は、現在はあまり取り上げられませんが、AI時代にこそ、経済学の社会科学的な側面が求められるのではないでしょうか」

(編集委員 前田裕之)

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