渋谷にフィルム山積み店 銀塩ブーム「普通」に広がる
デジタルでは撮れない写真を求めて 最新フィルムカメラ最前線(3)
渋谷駅から徒歩5分、SHIBUYA 109から東急本店に向かう文化村通りに店を構える「カメラのキタムラ東京・渋谷」では、通りに面したところにカラーフィルムを山積みにしている。若い世代に人気の街で、誰が買うのか、どれぐらい売れるのか。同店でプリントサービスを担当する奥貴之さんに話を聞いた。
週末はレジに行列が
――通りに面した店頭のいちばん目立つ場所にフィルムが山積みになっていますが、渋谷でフィルムがそんなに売れるんでしょうか。
売れていますね。並べて売っている「写ルンです」も人気ですけど、フィルムも1日に何回も補充しないとなくなってしまうくらいです。フィルムを買うのは高校生の方もいますが、20代の方が多いですね。男女比は特にどちらかが多いということはありません。普通にこの辺を歩いている方に、普通に購入していただいている印象です。撮っている写真も、何気ない街並みだったり、美容師さんがカットモデルを撮っていたりです。
白黒のフィルムや中判カメラ用のブローニーのフィルムも扱っていますが、若い方が当たり前のように買っていきます。白黒のフィルムは現像所で処理するので仕上がりに数日かかりますが、それもご承知の上です。
――1日に現像する本数はどのくらいでしょうか?
きょうは平日だから少なめで、100本いくかいかないかでしょうか。休日だと150本ぐらいですね。現像と一緒にフィルムを買われる方も多くて、週末はお客さまがレジ待ちで列になることもあります。
カメラ選びはスマホで確認
――山積みになったフィルムの隣に中古カメラが並んでいます。渋谷店の3階には中古カメラ専門の売り場がありますが、カメラを買う人は3階へ行くのでは?
若い方には、3階の中古カメラの品ぞろえはちょっとハードルが高いみたいです。写ルンですから入ってフィルムカメラを使ってみたいという方が、いきなり一眼レフには手を出さないでしょう。「フィルムを入れ替えれば何度でも使えるから、写ルンですより経済的」という理由でフィルムカメラを選ぶ人もいるんです。だから3階まで行かなくてもいいように、1階にも手軽に使えるコンパクトメラを並べています。
あと店の前は人通りが多いので、外から見えるところにフィルムカメラを置いて、通りかかった方に見ていただきたいという狙いもあります。興味を持って立ち止まってくれる方がいたら、「カメラに触れますよ」ってお声がけしています。
――1階で売れるのはどんなカメラですか?
ズームの倍率や機能ではなく、価格とデザインで選ばれる方が多いですね。軽くてかわいいカメラが人気ですが、持った感じがしっくりくるからとオリンパスの「μズーム」のようなちょっと大きめのカメラを選ばれる方もいます。
数千円のフィルムのコンパクトカメラは保証なしで販売していますが、「この価格なら」と、ご納得いただけています。
――3階で買う人と1階で買う人は違うということでしょうか。
3階で買う方は、より細かくカメラを選びたい方や、相談したい方だと思います。1階に来る方は、詳しい友達と一緒に来て説明してもらったり、その場でスマートフォンで検索してどういうカメラかを調べてから、店員に声をかける方も多いんです。そういう選び方、買い方も今っぽいと感じています。
写真はスマホでダウンロード
――来店する人はフィルムを買ったり現像したりするために渋谷に来るというよりは、渋谷に来るついでに店に寄るという感じでしょうか。
カラーネガフィルムなら最短1時間で現像してデータ化できるので、フィルムを現像に出してから食事をしたり遊んだりして、帰りに受け取っているという印象です。会計した後で友達同士、店内で写真を見せ合っている方もいます。
また現像したネガカラーフィルムのデータを直接スマホに転送する「スマホ転送サービス」も行っているので、フィルム現像と一緒に注文される方がほとんどです。これは、現像した写真をデータ化してCDに保存する「ネガからCD」がセットになっていて、データ化した写真を全てお客さまのスマホに転送するサービスです。これによりパソコンから画像を読み込んでオンラインストレージで共有したり、自分のスマホあてにメールで送ったりといった手間が省けるので、Instagram(インスタグラム)やFacebook(フェイスブック)などのSNSで手軽に友達と写真を楽しめるようになります。
◇ ◇ ◇
現像した写真はデータ化してスマホで楽しむ、という話は、以前取材した別のカメラショップでも聞いた(記事「フィルムカメラ女子 『私は一眼レフよりコンパクト』」参照)。フィルムカメラで撮影はするが、フィルムにこだわりすぎず、カジュアルに楽しんでいるということだろう。
今回の取材は平日の午後に店頭で行ったのだが、話を聞いている間にも次々に若い男女がフィルムを持ってレジへ向かっていった。「いろいろなフィルムを使ってみたんですが、お気に入りはコダックのフィルム」と教えてくれたのは、美容院に勤務するりえさん(21)。「フィルムカメラは失敗することもあるけれど、出来上がるまでわからないところが面白い」とのこと。愛用のペンタックスのコンパクトカメラで、プライベートだけでなく仕事のイメージカットも撮影するという。
奥さんによると、数年前から全国的にフィルムのお客さんが減る中で、渋谷店では店長が絶対にフィルムをなくさないとがんばったそうだ。フィルムやフィルムカメラを店頭の目立つところに並べて、現像の即日仕上げも徹底するなどの工夫も怠らない。有料でフィルムカメラの使い方を教えるサービスも実施している。トレンドに敏感な若者が多い渋谷に店を構えるとはいえ、フィルムを持ち込む人が途切れない理由は、単なる土地柄だけではないのかもしれない。
(文・写真 吉田眞木 ※この記事の写真はネガフィルムで撮影しました)
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