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古代「史記」 偉人の出世学

2019/12/8

古代「史記」 偉人の出世学

父の鯀が失敗した治水に、禹が成功した理由は何でしょうか。史記は、禹が多くの山や川の姿を視野に入れて、水を「道(みちび)く(=導く)」ことに力を入れたと随所で紹介しています。禹は高いところから低い方に流れる水の性質を生かし、流れを止めることなくコントロールしたのです。鯀の失敗の理由ははっきり書かれていないのですが、鯀の人柄については堯の言葉として「命に負(そむ)き族を毀(やぶ)る(帝王である私の命令に背いたり、自分の一族でも痛めつけたりすることがある)」と書いています。おそらく鯀の不幸は、水を腕ずくで止めようとしたことだったのでしょう。

私が経験した銀行の職場は、経営を担うトップをはじめ全員がサラリーマンでした。多くの場合、職員の中で優れた実績を上げた人物がトップになります。舜や禹は世襲で帝王になったわけではありませんから、現代の企業経営になぞらえるとサラリーマン社長です。

禹のようにハードワークするのが従業員のひとつのあり方だとすると、トップの役割は夢を語り、目標を定め、禹のような人材を見いだすことでしょう。私は「管理者は管理されてはいけない」ということを重要な原則だと考えていますが、それは他者によって時間を管理されずに、長期かつ広い視野でものを考える余裕が大切だからです。

トップの座に就いたら、いつ、どこで、何をやっていてもいいということにもなります。しかしそれは、多くの部下が本当に納得できるものでないと必ず行き詰まります。のちに夏王朝を破滅に導いた桀(けつ)王は、酒色に溺れ暴力によって臣下を痛めつけました。

禹の治水は後世まで高く評価されます。この連載の1回目に登場した斉の管仲は「善く国を治むる者は、必ずまず水を治む」と言って、禹を参考にしました。孔子は「禹は吾(われ)間然(かんぜん)とすることなし(禹は私には全く非の打ちどころのない存在だ)」と語ったと「論語」にあります。日本は令和の最初の年に起きた台風禍を教訓に、より効果的な対策を講じなければなりません。もし技術が進歩した現代に禹が登場したら、いったいどんな治水に取り組んでくれるでしょうか。

吉岡和夫
1939年(昭和14年)千葉県生まれ。横浜国大経済卒。東海銀行(現在の三菱UFJ銀行)に30年間勤務。書家の古谷蒼韻氏に師事。雅号は「泰山」。中国「司馬遷史記博物館」(2016年開館)の顧問も務める。著書に『史記を書く』(1996年)、『毒舌と名言の人間学』(2005年)など。名古屋市在住。

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