最近はこの締め切りが来る度、1カ月って早いなぁと思う日々です。今回は、7月期の月9ドラマ『監察医 朝顔』の主題歌として流れていた、シンガーソングライター折坂悠太くんの『朝顔』について。

彼は1989年生まれ、僕が88年なのでほぼ同世代だ。体験してきたヒットチャートも同じだろう、とかいろいろ通ずるものはあるはずなのだが、彼には僕にない感覚がたくさんあるように感じる。それもそのはずで、ロシアやイランなど海外で生活した時期も長かったらしく、そういうことかと納得した。最初に言っておく。僕は彼に嫉妬している。この異国感あふれる歌い方は僕には絶対にできないし、これから日本のポップスを代表するかもしれない才能がとてもまぶしい。でもすごく好きなのだ。演歌? 民謡? 歌い方がとても独特で、歌声だけで日本の古き良き景色が浮かぶ。ただ、それだけじゃなくて、しっかり現代的でもある。古くないのだ。
まずは、昨年リリースの『逢引』を例に彼の魅力をひもといていこう。この曲で彼は、ポップスには普通入らないであろう、芝居の舞台上から投げかけるような独特な語りや、民謡感あるフェイクを入れている。そして素晴らしいのが、サビでのロングトーン。「歌います、こうです!歌います、こうです!」と叫んだ後のシャバダバから始まるフェイクからのメロで、なぜか泣きそうになる。聴いたことのない構成なのだ。こんなメロディーの作り方があったんだとハッとした。でも、これを僕がやったら奇をてらったようにしかならないと思う。彼の深みのある声だから成立する展開だ。日本人の根底にある感性を刺激するような懐かしさがありつつも、そこに異国感が混じることで、どこか新しくもあるのが折坂くんの歌なのだ。
その部分に関しては、サザンオールスターズと似ているところがあると思っている。彼らもメロディーに懐かしさと新しさが常に同居しており、そこに桑田(佳祐)さんの独特な歌声が乗ることで、聴いていてとても不思議な気分になるのだ。しかもサザンの場合、よく聴くと一部が英語詞になっていたりして、日本語詞との同居にも新しさを感じたりする。『HOTEL PACIFIC』のサビの「灼けたSun-Tannedの肌に」の部分なんかがそうだ。この独特な語感が癖になる。
ユーミン(松任谷由実)さんにもその感覚はあって、ポップスの世界で長くトップを走り続けるアーティストに共通するものなのだと思う。「懐かしくも新しい」、これがポップスにおいて最も必要な感覚だと先輩方が教えてくれているのだ。“懐かしい”ものは過去の記憶や感覚を思い出させるため、スッと自然に入ってくる。ただその中に“新しさ”があれば、自分の中に留めておきたくなる。「自分の感覚を育ててくれるかもしれない」と本能的に感じるからだろう。そうやって名曲は長く愛されていく。
普通の曲ではありえない終わり方
そしてやっと(笑)、今回の1曲『朝顔』の話。ピアノバラードの今作は、とにかくその“終わり方”が素晴らしい。「ほら今に咲く、花!」できれいに終わるかと思いきやビートが変わり、祭囃子(ばやし)のような雰囲気となった後に掛け合いがあって突然終わる。ただ、こんな展開がくるとは全く予想できないため、「懐かしいけど新しい」という感覚になるのだ。そしてこの曲は、歌詞の最後にある「そりゃ上々」というワードだけで語れてしまうというか、こんな曲だったんだとちゃんと思える。シンプルな一言だけど、それを普通に入れないあたりが折坂くんのすごさであり、まねできないところだ。こんな終わり方をされたら、もう1回聴いてしまう。音数も少ないから歌もちゃんと真っすぐに入ってくる。声が良ければ音数はそんなにいらないのだ。
彼がスーパーヒット曲を出すのは時間の問題だと思っている。米津や(星野)源さんの厚い壁を越えるのは彼かもしれない。それくらい稀有(けう)な才能の持ち主。僕も頑張らねばと毎回刺激をもらっています。

[日経エンタテインメント! 2019年11月号の記事を再構成]