デザインに浸るものづくり空間 自分の「物語」を探す
美しいデザインや創造性あふれるものに囲まれると、思考の幅が広がるような気持ちになりませんか。そこでデザイン心が刺激されるお店を紹介します。ふっと息を抜きたいとき、心の創作のドアを開けたいとき、こんな場所がきっとあなたの役に立つでしょう。
渋谷・道玄坂上にある「FabCafe(ファブカフェ) Tokyo」では、カフェとして飲食の利用はもちろん、店内に設置されたレーザーカッターや、3Dプリンターなどを使って、ものづくり体験ができます。本来ならば、企業や大学にあるような本格的なレーザーカッターなどが、カフェの中に置かれているのです。英語の飛び交う店内の雰囲気は、世界7つの国と地域10拠点に展開するFabCafeならでは。
ものづくり初心者はデザインに触れ、ものづくりのエッセンスを体験し、上級者は自分の作ったアートやデザインを形にできます。しかも、おいしいコーヒーを飲みながら……。
というわけで、さっそく体験! 初心者でも気軽に楽しめる「Fab体験プラン」の中でも、もっとも短時間で、気軽にできそうな「Key charm」作りに挑戦してみます(事前予約制。空きがあれば予約なしも可)。
なんと、こちら、1個800円で体験ができます(材料費込み。デザイン持ち込み&事前相談する場合はプラス1000円。体験時間は約20分でデザインの時間は含まない)。
世界に一つだけのタグづくりに挑戦
さて、何を作ろうか……。ちょうど愛犬の誕生日を迎えたばかりだったので、プレゼントとして「迷子札」を作ることに。愛犬の名前と、電話番号を入れれば、首輪に付けるネームタグにピッタリです。紙の上に、Myオリジナルメッセージを入れる瞬間に、テンションが上がります。
スタッフによるマシン操作でカットが済めば、ベルトの革をつなげて完了ですが、今回は「自分で仕上げた」感を強く味わいたいため、仕上げの木づちトントン体験もさせていただきました。これでわずか20分ほど。デザインの時間を入れても30分以内でした。アッという間に出来上がり。すてきすぎる!
仕上がったキーチャームに大満足。これ、わんこのプレゼントにせずに、自分のバッグのネームタグにしようかしら。お気に入りの言葉を刻印したキーチャームを持ち歩くと、前向きな日々が送れそう。
マシンがなじむカフェでデザインを形に
店内を見渡すと、次のお客さんが、持ち込んだデザイン(すごく大きなイラストです)を基に、レーザーカッターを使って粘土作品用の型を作っていました。店内のレーザーカッターを自身の作品作りに何度も役立てているそう。カフェを楽しみながら作品が出来上がるまでのひと時を過ごす。こんなことも、クリエーティブカフェだからこそできるというもの。
店内には、フード専用レーザーカッターや、3Dスキャナー、ミシンなどもあり、使いこなすとどんな作品も自由自在。イベントも多数開催しているので、何か形にしたいデザインがあるという人は、ここで夢が実現できるかも……。
カフェメニューにも注目です。人気は「マシュマロラテ」(600円、税抜)に「ジンジャーチャイラテ」(580円、同)。生産者も農場も単一の「シングルオリジン」の豆だけを使った味わいのあるコーヒーとともに、クリエーティブタイムを体験してはいかがでしょうか。
グッドデザイン賞受賞のアイテムを集めたショップ
次は日本全国の「良いデザイン」に触れられるショップへ行きましょう。
「GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA」は、グッドデザイン賞(日本デザイン振興会が主催する日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組み)を受賞した文具や雑貨、インテリアに食品などが約1000点もそろうショップ。
ところは、東京・丸の内「KITTE」3階。ここに来れば、良いデザインに囲まれた暮らしがイメージできそう。というのも、店内は「リビングルーム」や「ダイニングルーム」「ホビールーム」など日本の一般的な住居の間取りに沿った部屋に分かれており、ライフスタイルに合わせた商品を、テーマごとに選べるようになっているからです。陳列の仕方も、日常で使う際の高さ(ちゃぶ台や食器棚など)を意識しているので、通常の棚の位置より低かったり高かったりします。それがお店全体に生活感をもたらしているのかもしれません。
こだわりの食器などキッチン周りのものやテーブルウエアを探すならダイニングルームに。キッズ向けのものや文具は、ホビールームに行けばよし。「部屋」を回遊していると、面白いデザインのものたちからインスピレーションが得られる気分に。
ショップでありながら、ショールーム。ショールームなのに商品の購入ができる。というライフスタイル提案型ショップは、まさに自分に合った心地よさを発見する場所でもあります。
商品に込められたストーリーもその場でチェックできる
商品のデザインをめでていると、「この作品にはどんな思いが込められているのだろう」という疑問が湧き上がってきます。そんなとき役立つのが、商品のプライスカード横に付けられたQRコード。このコードをスマホで読み取ると、商品の背景にあるストーリーを知ることができます。デザイナーの思いから、プロの視点などを知ると、その商品をどう自身のライフスタイルに生かしていくべきかまでイメージする手助けになります。
食器など、日々使うものだからこそ、作り手の思いのこもった温かみのあるデザインのものを使いたい。例えば職人が一つひとつ丁寧に作ったカトラリー「ゴア」シリーズ(2016年度グッドデザイン賞受賞)は、繊細なデザインで美しい! 料理に添えれば、インスタ映えすると評判で人気のアイテムだとか。
もう一つ、若い女性に人気のあるグッドデザインの商品が、石川県加賀市の歴史ある山中漆器の木地職人による技術で作られた木のコーヒーカップ。耐久性があり、重ねて収納できるのが魅力なだけでなく、反った飲み口がコーヒーの味わいをより感じさせる、手のひらで包み込んで飲むなどの新鮮な体験を作り出すと評価されました。グッドデザイン賞を受賞したのは昨年(2018年度)。
このように、すべての商品がグッドデザイン賞を受賞しているので、買い物しているだけで、センスが磨かれそう。買い物へ行くというよりも、デザインとの出合いを求めて行く、と言ったほうがよさそうです。
お店の入り口の「フロントガーデン」では、ワークショップや、職人の実演といった参加型イベントが不定期で開催されています。今年(2019年)春には、墨田区で伝統技術を伝える職人が実演する「すみだモダンPOPUP STORE」が、18年末には、新潟の燕三条の職人とともにお箸やスプーンを作るワークショップが開催されました。同年9月に行われた、やすりで磨くシルバーの指輪作り体験ができるワークショップ(1時間、参加費3000円)は女性に人気だったそうです。今年の夏は富山県高岡市の錫(すず)ブレスレットなどのブランドを扱う「NAGAE+POPUP STORE」も開催されました。
自分を包む生活空間だからこそ、本当に気に入ったものだけを選び、思いが込められている商品をそろえる楽しみは心を豊かにしてくれます。ただ安いだけ、オシャレなだけではなく、そこにデザインとストーリーを求めたい。すてきなデザインに出合えば、そこから自身の生き方がきっと、見えてくるはずです。
東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア1F
GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA
東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE丸の内3階
*2019年11月1日、渋谷スクランブルスクエアの中に渋谷店をオープン
(取材・文 大崎百紀、写真 花井智子)
[日経doors 2019年7月31日付の掲載記事を基に再構成]
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