企業文化を進化させる法則 決め手は「少数」の行動に『最高の企業文化を育む「少数」の法則』監訳者に聞く

もう1つは、ビジネスのグローバル化が進んだことで、企業という組織に求められる文化の特質が変わったことです。日本企業にもともと備わっていた文化的な特質と、現在の日本企業が「なりたい」と思う理想像の間にギャップが生じているのです。

例えば、多くの日本企業はコンセンサス重視で、ボトムからトップに上げていって全員の合意を取り付けることにより意思決定を行ってきました。また、事前にきちんと計画を立て、失敗のないように物事を進めるという特徴もありました。

これら2つの特質は、高度成長期のように将来の予見可能性が高い環境下ではフィットしていたのですが、最近のように変化が激しく先行きが不透明な環境下ではうまく機能しなくなっているのです。そこで多くの経営者は、変化に合わせてドラスティックに意思決定を下し、問題が生じたらアジャイル(機敏)に対処していけるような文化的特質を求めるようになりました。ただ、コンセンサス重視とドラスティックな意思決定、計画型とアジャイルというのは、どちらも正反対な特質ですから、どうやって自社の文化を変えていけばいいのかと悩んでいるのです。

ただし、本書も指摘しているように、文化の変革に取り組むときには、自分たちの文化を全く新しい文化に取り換えようとするのではなく、今ある文化を改善する努力をすることの方が重要です。

それぞれの組織文化には、変化を成功させるために必要な要素がすでに含まれており、リーダーがそれらを大切にすれば、変化は持続性のあるものになるということだ。古い文化を新しいものと取り替える必要はない。あなたに求められているのは、古い文化の中に、前進の助けになる要素を見出すことだ。
(同書 序文より)

「少数」のことから始めるのが成功のポイント

「企業文化」研究のパイオニア、著者のジョン・カッツェンバック氏

原書のタイトルにもあるように、本書では「重要な少数(クリティカル・フュー)」という言葉がポイントになっています。

一言で説明すると、まずはその会社の文化を特徴づけている「少数」の要素を特定したうえで、ビジネスの現場を支えている「少数」の非公式なリーダーを中心に、文化を改善するために「少数」の行動を起こすことを提唱しています。

なぜ「少数」なのかと言えば、全社をあげて包括的な改革に挑戦しようとすると、解決しなければいけない課題や問題が無数に生じて、先に進めなくなってしまうからです。そのため、まずは手をつけやすいところから改善に着手し、少しずつでも成果を残していって、その成果を組織全体の改革につなげていくという手法が有効なのです。おそらく、著者がこうしたアプローチにたどり着いた背景には、世界中の数多くの企業・団体の文化改革の現場に立ち会って、さまざまな失敗例・成功例を目の当たりにしてきた経験があるのでしょう。

同様にコンサルタントとして日本企業の変革の現場を見てきた私の立場からしても、このクリティカル・フューの考え方は日本企業との相性が良いように思えます。海外に比べて人材の流動性が低い日本の企業社会では、各社にその事業環境・特性に適合するように独特の文化が育まれ、非常に特徴的な「行動」パターンや価値観が伴っており、また、組織の中で一目置かれるミドル層、中間管理職が「非公式なリーダー」として存在していることが多いからです。このような日本企業の特徴を考慮すれば、本書のアプローチはとても親和性が高く、有効性がきわめて高いと考えられます。

包括的なアプローチによって物事がうまくいくようになったと語るリーダーにはまだ会ったことがない。複雑さは煩わしいだけであり、包括的アプローチはエネルギーの無駄だ。あなたに必要なのは単純明快さと、社員全員を前進させる少数の要素だ。達成すべき目標や生み出すべき結果は少なくていい。あなたがすべきことは、少数の重要な行動とポジティブな感情によって企業文化を活性化し、それを軸として社員を一つにまとめることだ。
(同書第1章 「『文化の再構成』がなぜ重要なのか」より)
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