夫の転勤バネに世界にもまれる 平沢聡美さん
東洋合成工業取締役感光材事業部長(折れないキャリア)
社運をかけた120億円の工場投資プロジェクトの最前線に立つ。会社の売上高の半分を占める大型投資に取締役会では心配の声もあったが、工場長と組み「(次世代通信規格の)『5G』で半導体需要は絶対増えるはずです」と説得した。半導体製造に使う「感光材」事業は世界シェアトップ。化学業界の花形事業で100人規模の部下を率いる。
横浜国立大の応用化学科を卒業後日本電気に入社、半導体関係の研究部に所属した。26歳で社内結婚した夫は黎明(れいめい)期の携帯電話の開発で忙しく、会社の食堂で夕食を共にするのが精いっぱいだった。
1年間の育休から復帰後はほぼワンオペ育児。当時は育休を取ると社内評価が「0点」に戻る時代で「残業したい」と夫にも掛け合ったが実らず、後輩の男性社員に向かって話す取引先を前に悔しい思いをした。
転機は32歳。夫の米国転勤で本意でない退職を決めた。「米国で平沢さんにできそうな仕事があるよ」。渡米直前に元上司に誘われ、日本人が立ち上げた半導体ベンチャーでエンジニアとして働くことになった。
同僚の中国人やインド人は博士号を持ち思考力と高い語学力を誇った。「技術は優れているのに、日本人はディベートが苦手」。通勤の車中でラジオのニュースを懸命にまね、社内で必死に議論すると、次第に受け入れられた。「やっぱり日本の技術はずばぬけている」。同僚の声に自信を深め「日本人はもっと海外に出た方がいい」と感じた。
欧州系の半導体メーカーに転職し、工場エンジニアとして国際標準化機構(ISO)の管理に携わった。帰国後に勤めた半導体薬液の企業が後に米化学大手の傘下に入り、世界の女性活躍を目の当たりにした。
マーケティング部門の管理職だったが、子育てで会食に出席できないこともあった。「女性は営業やマーケティングで十分に仕事ができないのでは」とストレスを抱えることもあった。
13年に東洋合成に入社。会食はランチを設定し、部下が気兼ねなく帰れるよう気を配る。17年からはダイバーシティ推進の担当役員も務める。最近、中国の取引先で女性の工場長から「日本の女性役員は初めて」と声を掛けられた。「女性だからという常識を一つ一つ覆し、次の世代が1%でも歩きやすくなれば」と期待している。
(西岡杏)
[日本経済新聞朝刊2019年11月25日付]
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