働くシニアの年金 収入多いと「没収」も年金道場(4)

老後は年金をもらって悠々自適――。そんな生活はおじいちゃん、おばあちゃんの時代までかもしれない。20歳代の君たちがシニアになる頃は、働きながら年金をもらう人が今よりずっと増えるだろう。現在、国ではそんな働き続けるシニアの年金について議論している。「在職老齢年金」という制度だ。

1960年代に制度始まる

「年金」といっても、追加でもらえるわけではない。むしろ逆で、年金をもらう年齢になっても、働いて一定以上の収入がある人への支給を停止する仕組みだ。年金額が減ったりゼロになったりする。

余裕のあるシニアには年金を一部我慢してもらおうというのが制度の趣旨だが、払った保険料に見合う年金がもらえないのは不公平だし、「働く意欲を妨げる」という意見も根強い。

対象は厚生年金に入って働くシニアの会社員らだ。昔、厚生年金は退職しないともらえなかったが、年を取るにつれて賃金が減り、それだけでは生活できない人が増えた。1960年代、在職中であっても一定額の年金をもらえるようにしたのが制度の始まりだ。

当初は対象が65歳以上だけだったが、60代前半にも広がった。これまで改正を繰り返しており、賃金水準にかかわらず一律2割カットの時期もあった。今は月収と年金の合計が基準額を上回ると、超過分の半分が支給停止になる。減るのは厚生年金部分(報酬比例部分)のみで基礎年金部分は対象外。停止された年金は「没収」で戻ってこない。

基準額引き上げには批判も

2019年度の基準額は65歳未満が月28万円、65歳以上が同47万円。65歳以上を例にとると、本来の年金額が月10万円の場合、月収が37万円を超えると年金の減額が始まる。月収57万円超だと年金は全額停止になり、1円ももらえない。

制度見直しの議論の中心は65歳以上だ。月47万円という基準額を引き上げ、シニアの就労意欲を高める狙いだ。議論の過程では基準額を62万円や51万円に上げる案も出たが、対象は賃金がかなり高い人たちに限られるため、「金持ち優遇」との批判の声も大きい。

基準額引き上げに慎重論が強いのは、君たち現役世代への配慮もあるからだ。基準額を大幅に上げたり、制度自体を廃止したりすれば、減額となる対象者が減り、年金支給額が大きく膨らむ。年金財政が悪化し、将来もらう人の年金額に悪影響が出かねない。

65歳未満も減額の仕組みは一緒。現在は基準額が低いので支給停止になりやすいが、基準額を65歳以上と同じにする案が有力だ。ただし、年金支給開始年齢の段階的な引き上げが終われば(男性25年、女性30年)、対象者はいなくなる。

半面、65歳以上の働くシニアは増えていくだろう。やがて君たちの親や自身の働き方にも影響するかもしれない。改正案は20年の通常国会に提出される見通しだ。

(土井誠司)

[日本経済新聞朝刊2019年11月23日付]