冬の六甲山踏破しいい湯だな 甲陽学院変わる伝統行事甲陽学院中学・高校(下) 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

“なんでもあり”の甲陽らしいといえば、甲陽らしい。

「いまでは考えられないことですが、1970年代には山の中で酒盛りをする生徒もいましたね。同じころ、引率するはずの教員が途中でエスケープして帰ってしまったこともある。もともとそんなに緊迫した行事ではありませんでした。でもやっぱり、体力に自信のない生徒には苦行でしょう。ですから昔は結構欠席する生徒もいたんですよ」

体力的にしんどいのか、単にかったるいだけか、いずれにしてもズル休みである。

行事に積極的すぎる生徒に感じる一抹の不安

「でも、最近はこういう行事にも積極的に参加する生徒が増えました。うちの学校だけではなくて、よその学校の先生からもそう聞きますから、いまの世相でしょう。それはとてもいいことなんですけれど、一方で気になることもあります。昔の生徒たちに比べると、いまの生徒たちのなかにはときどき過剰に学校が好きであるように見える生徒もいるんです」

行事に積極的に参加すること、学校が好きであることの何が悪いのか。

「非常にうがった見方なのですが、『学校が好きだ』と自分に過剰なまでに思い込ませている部分があるんじゃないかと心配になることがあるんです。心の中の何かを覆い隠すために無意識の抑圧を行っているのだとしたら、それは見過ごしてはいけないはずなんです。いや、こんなこと、非常に個人的な心配事で、職員室でも話さないんですけれど……」

苦しかった中学受験勉強の反動として、その結果得られた「甲陽生」という“身分”に過剰に適応しようとしているのではないかという心配だ。裏を返せば、「甲陽生」というブランドを外したら、自分には価値がないと思ってしまっている生徒がいるのではないかということだ。

これは甲陽に限った話ではない。しかも子どもだけではなく、保護者にもその傾向が見られる。親がわが子の通う学校のファンになることはいいことだ。しかし親が、子ども本人よりも子どもが通っている学校のブランドを誇るようになってしまったら本末転倒だ。

そんな状況では子どもは、親が自分を誇ってくれて愛してくれるのは、自分が自分だからなのか、“いい学校”に通っているからなのか、わからなくなる。不安な子どもは、ますます学校のブランドにすがる。学歴へのプライドは高いが自尊感情が低い人間のできあがりだ。

それほどまでに中学受験勉強が過酷化し、かつ、親子の密着を招いていることを、今西校長は心配している。

ものごとの表面だけを見て、「最近の生徒たちは行事にも積極的に参加してくれるいい子たちです。親御さんたちも学校のファンになってくれて、文化祭や運動会にもたくさん参加してくれます」と言っておけば、校長としては100点満点のはずである。しかし今西校長は違う。常に自分たちの置かれた状況をクリティカルに見ようとする態度そのものに、甲陽育ちの気骨を見た。

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甲陽学院中学校・高等学校(兵庫県西宮市)
創立は1917年。日本酒の「白鹿」で有名な辰馬本家酒造と深い関わりがあり、地元では「辰馬さんの学校」として親しまれている。1学年は約220人。2019年東大合格者数は34人、京大合格者は49人。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の直近5年間(2015~2019年)平均は132.0人で全国6位の超進学校。卒業生には、サントリーホールディングスの佐治信忠会長、アスキー創業者の西和彦氏、世界初の宇宙ごみ回収業者アストロスケール創業者の岡田光信氏などがいる。

新・男子校という選択 (日経プレミア)

著者 : おおたとしまさ
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 935円 (税込み)

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