「白鹿」ゆかり名士の泉 甲陽学院が寄付受けないワケ甲陽学院中学・高校(上) 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

「辰馬さんの机」と呼ばれる、総楢(なら)材の武骨な机=甲陽学院中学校・高等学校提供
「辰馬さんの机」と呼ばれる、総楢(なら)材の武骨な机=甲陽学院中学校・高等学校提供
兵庫県西宮市にある甲陽学院中学校・高等学校は、東京大学や京都大学など難関大学に多くの生徒を送り出す中高一貫の私立男子校だ。東大よりも地元京大志向が強いため、全国的な知名度では損をしているが、進学実績は全国屈指。その歴史や校風、強さの秘密に教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が迫った。

教育と醸造業の共通点

2019年には東大に34人、京大に49人、国公立大医学部に63人もの合格者を出した超進学校・甲陽は、実は日本酒「白鹿」で有名な西宮の酒造家・辰馬家が設立した学校である。地元では「辰馬さんの学校」として親しまれている。「地元では有名ですが、阪神間を出たら知っているひとは少ない。ローカルな学校ですよ」と今西昭校長は謙遜する。

1917年、大阪府立女学校長などを務めた教育者の伊賀駒吉郎が、現在の甲子園球場の近くに甲陽中学を開いた。正式な学校ではなく、私塾的な存在だった。しかし数年で経営難に陥る。伊賀の懇請にこたえて経営を引き受けたのが辰馬本家13代目当主・辰馬吉左衛門だった。1920年、財団法人辰馬学院甲陽中学校として、正式な中学校の認可を得た。

同校のOBである住友化学の岩田圭一社長は、甲陽での教育を酒の醸造になぞらえ、同窓会誌に次のような文章を寄せている。

「甲陽の教育方針は『銘酒の醸造のように、焦らず、競わず、衒(てら)わず、長期的な展望に立っての人間教育』と謳(うた)われていますが、社会に出て長く経(た)つほどに在学時の自らの行為を顧みる度合いが多くなります。これも『醸造』の一要素かもしれません」

高校の校舎は六甲山に近い苦楽園地区にある

現在の理事長は辰馬本家15代当主・辰馬章夫氏。辰馬家が経営する辰馬本家酒造の企業理念はまさに「育てる」である。今西校長も「教育は工業製品をつくるのとは違います。どちらかといえば農業に近い。醸造業もまさに農業ですから共通する部分が多いのでしょう」と言う。学校としての歴史は100年ちょっとではあるが、酒蔵として350年以上にわたって育て続けた歴史がその土台にあるというわけだ。