クールジャパンは時間をかけて ハーバードからの助言ハーバードビジネススクール教授 フアン・アルカーセル氏(下)

一つ一つの投資額は小さく

3つめは、最初から特定のプロジェクト、製品、サービスに巨額の投資をしないことです。海外進出はどの国にとっても難しいこと。アメリカでもヨーロッパでも失敗プロジェクトだらけです。特に政府が机上で決めたものは、うまくいかない可能性のほうが高い。どんな製品やサービスに需要があるのか、誰もわからない時代において大切なのは、試行錯誤をたくさん重ねられる体制にしておくことです。「一つ一つの投資額は小さく、プロジェクト数は多く」です。実証実験にまさるものはありません。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 日本は、文化的な製品やサービスを海外に売り出す上で、日本の強みをどのように生かせばよいのでしょうか。

アルカーセル 日本の文化には、国境を超えて世界中の人々に訴えかけるものがたくさんあると思います。日本人特有の和の精神、美意識などが「文化的遺産」として蓄積されていて、それが製品に反映されていると思います。

日本の最大の強みは、その独自の文化です。国外の人からはなぜこのような美しい製品をつくることができるのか、全く想像もつきません。料理でいうところの「秘伝のソース」がわからないのです。だからこそ、日本の製品は簡単にまねできない。そこに大きな価値があります。

日本は、この独自の文化遺産を生かした製品やサービスをどんどん開発し、世に出すべきでしょう。たとえばデンマークの雑貨チェーン「フライングタイガーコペンハーゲン」などを参考にするといいかもしれません。この会社はデンマーク人の起業家夫妻によって1990年代に設立されましたが、今、世界中で店舗を展開し、大成功しています。その商品は、カラフルで、ポップで、シンプル。デンマークの文化が存分に反映されています。

テクノロジーを取り入れる先見性も強み

さらに新しいテクノロジーを取り入れる先見性も日本の強みです。たとえば、「自撮り」。90年代、日本では「プリクラ」などのプリントシールがはやり、すでに自撮り文化が根付いていました。2000年にはすでにカメラ付きの携帯電話が発売され、世界のどの国よりも早く、写メールが流行しました。私はなぜ日本がこのような強みがあるのにもかかわらず、それを生かしたビジネスをうまく展開できていないのか、不思議でなりません。

今、私が興味をもっているのは、日本の通信会社が(次世代通信規格の)5Gの技術をどう取り入れて、どのようなサービスをつくり、海外で展開していくのか、というテーマです。もう少し研究してからハーバードの教材にしたいと思っています。

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フアン・アルカーセル Juan Alcacer
ハーバードビジネススクール教授。専門は経営管理。主に国際競争が多国籍企業の立地戦略に与える影響を研究。MBAプログラムにて「国際競争戦略」、エグゼクティブプログラムにて「戦略:競争優位性の確立と維持」などを教える。通信企業、エンターテインメント企業、航空企業のグローバル戦略に関する教材を多数執筆。

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