日経ARIA

女性上司となる世代の「敬称略」マナーとは?

このようなご時世、男性の職場のマナーをあれこれ糾弾するだけでなく、振り返って女性の側も、女性同士や、対男性のときに相手をどう呼ぶかというコミュニケーションの繊細な感性は備えていた方がいい時代なのだと思う。

アイドルファンなどのオタク女子界隈(かいわい)や、リアル世間での年上女子から年下男子への態度にも見受けられるのだが、もえやらキュンやらの対象を

◆山田さん→山田クン→山田
◆太郎さん→太郎クン→太郎

みたいに、愛が(一方的に)濃縮されるにつれて距離を(一方的に)縮めていく傾向がある。

「太郎がさぁ」。この、女子が男子を「敬称略」して呼び捨てするときの「私のもの」オーラったら、同じ女性から見てもすごいものが。

オタク女子界隈(かいわい)なんかでは、対象を呼び捨てするファンはそりゃもう、それまで投下してきた時間も体力も金額も愛情の濃さも(あと本人のキャラの濃さも)ガチレベルのファンだし、自分の応援によって相手を育てている(自分が養分になっている)という意識がある。友達目線や姉目線や母目線ということもままあるが、多くの場合において脳内ポジションは「彼女」だ。「私の」太郎、なのである。

だからなのだ、リアル世間で女性上司が男性部下を「山田ぁ!」どころか、よりによって「太郎ぉ!」なんて呼んでたら、もう肉体関係を示唆しているとしか思えない。その場にいる全員の耳と神経が一斉にその方向へ向けられるだろう。だが割と多くの職場において、「山田ぁ」を連発する50代以上のガチガチ管理職女性の姿が目撃されている……。「太郎ぉ」でなくてよかった、と、その管理職女性の身をおもんぱかって胸をなでおろす私である。

おそらくその女性管理職にとっては、これまで長年戦ってきたがゆえに、その男女差のないスタイルが武器であり武装であり、「フランクでニュートラルな自分」像なのだろうと、私もよく理解できる。きっとこれまでのキャリアで、さんざんそのひと自身も男性上司に「敬称略」され、同じチームでの連帯感や所属意識を高めてきたのだ。

ただ、コンプラ時代の職場で、男性上司が部下を「山田ぁ!」と呼びつけることさえパワハラと言われかねない男性の戦々恐々ぶりを見るに、翻って女性側も「山田ぁ!」ましてや「太郎ぉ!」をいつまで続けられるのかな、とふと考える。

男女に限らず、人間関係は鏡合わせ。相手にマナーを求めるなら、自分の側にもマナーが求められるのだ。

河崎環
コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川県育ち。家族の転勤により桜蔭学園中高から大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での生活を経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。子どもは社会人になる長女、中学生の長男。著書に『女子の生き様は顔に出る』、『オタク中年女子のすすめ』

[日経ARIA 2019年7月16日付の掲載記事を基に再構成]

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