積極的すぎる参加者の態度は、議論の方向をゆがめかねない。持論を押し通したがる人は「早い段階で議論をまとめたがる傾向がある」(宮野氏)。まだ参加者から意見が出尽くしていないのに「もう意見は十分、出そろった。採決に移ろう」と勝手に議事を打ち切ってしまう。その上でたくさんの書き込みを武器に、自分が望む結論へ全体を引っ張っていこうとたくらむ。こうしたやや横暴とも映る議事運営を許さないためにも「あらかじめ手続きや規則を明確にして、会議を始めるにあたって全員で共有しておくのが望ましい」(宮野氏)

「どう読まれても、自分の責任」

「発言が正確な文字記録として残るのは、リアル会議にない長所」と語る宮野氏

日本ではテキスト会議の際に「割と寛容な態度で臨むケースが多い」と宮野氏はみる。議長を決めないで、互いの空気を読みながら融和的に意見交換が進む。しかし、本書ではルールに従わない参加者へのペナルティーに「第8章 懲罰」の1章を割いている。「注意をしても決まりを破る行為に対しては、最低限の罰則が必要だ」(宮野氏)。テキスト会議なら、リアル会議で声を発するのをためらってしまうような人たちからも意見や提案を引き出しやすい。このメリットを生かすには、無遠慮者が得をするような運用は好ましくないだろう。

テキスト会議のメリットはほかにもある。たとえば「発言が正確に文章として記録に残る」(宮野氏)こと。リアル会議でも議事録を作ることは多いが、必ずしも発言を一字一句を写し取ってはいない。記録者の書き方次第で誤解の余地が残る。読む人によっても理解が異なり、発言の一部を抜き出された場合には、さらにニュアンスがずれやすい。書き込んだテキストは自分が書いた文章だから、「どう読まれても、自分の責任。かえって言葉選びや文章表現に細心の注意を払うようになる期待が持てる」という。

時間の制約も小さい。1時間程度のリアル会議では1人が発言できる時間は数分ぐらいに限られがちで、意見を十分な言葉数で伝えるのはなかなか難しい。「会議が終わってから、あれも言えばよかったと気づくことが少なくない。大事なポイントだけは発言できても、その点以外の角度からの検討につながりにくい」と、宮野氏は限られた時間内での意見表明に限界を感じる。その点、テキスト会議は思い浮かんだタイミングで書き込めるうえ、後からの追加や補足も可能で、立体的な議論を導きやすい。

宮野氏は「正しい意見がきちんと評価されるしくみが欲しかった」と力説する。リアル会議では「会議術」にたけた人が議事を仕切って、自分の望む結論に至らせるケースがしばしばある。会議の参加者間に立場の強弱があり、社内で勢力の大きい部門の意見が優先されるような展開も珍しくない。それぞれの意見や提案の「中身」ではなく、議事テクニックや力関係のせいで「社内少数者」や「弱者」の声が通りにくくなることはざらだ。新たな合意形成・意見集約のツールとして期待されるテキスト会議に、こうしたリアル会議の悪弊を受け継ぐのは好ましくない。

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