妻に怒られまいと謝ってばかりです
脚本家、大石静さん
なぜか妻の前に出ると、すぐに謝ってしまいます。悪いことをした実感はなくても、怒られまいと思って事前に謝ると、それがかえって裏目に出て、また怒られます。謝らないと、いつまでも責められます。どうしたらいいでしょう。(三重県・50代・男性)
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あなたが50代なら奥様も50代でしょうね。
私も60代のはじめまでは、老いの見え始めた夫を見ると、若い頃はステキだったのに、何でこんなオジイサンになっちゃったのかしら? 何でこの人と結婚しようなんて思ったのかしら? とイライラし、何かにつけて夫を叱っておりました。
すると夫はあなたと同じようにすぐ「ごめんね」とか「すいませんでした」と謝り、事態を収拾しようとしました。それがまた腹立たしく、「何を悪いと思ったか言ってみなさいよ」と、絡んだりしていましたよ。
あなたの奥様も多分、思うように流れてゆかない自分の人生に苛立ち、風貌の衰えにも苛(さいな)まれ、家で無防備に老いを見せるあなたにうんざりし、何か意味不明に腹が立つのでしょう。
ストレス発散というような単純なものではないですが、漠たるイライラを、一番身近な夫にぶつけてしまうのです。それ自体、甘えているといえばいえますし、信頼しているともいえます。怒っても、あなたは出て行かないと信じてもおられるでしょう。
もし、あなたがここで、意を決して謝ることをやめて、「何も悪いことはしていませんから」と奥様に堂々と立ち向かったら、どうなるでしょう。
奥様はイライラのはけ口がなくなり、心のバランスが保てなくなってしまうでしょう。するとますますイライラし、怒りがエスカレートするかもしれません。
それなら、無念ではありますが、これまで通り、謝る夫をなさっていたらよろしいのではないでしょうか?
この先、もう少し年を重ねると、体力も弱ってきて、これはもう、お互いやさしい気持ちで助け合わないと生きられないな、と思うようになりますよ。
私も60代半ばになったら、夫を叱らなくなりました。心穏やかに過ごす方が、楽だと気づいたからです。恐らくお宅もいずれは、そうなっていきますよ。
それまでは戦わず、とりあえず今まで通り謝りながら、時を過ごして行かれたらどうですか?
奥様はきっとそのうちやさしくなりますから、その時を楽しみに、もう少しだけ我慢して下さい。
[NIKKEIプラス1 2019年11月23日付]
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