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ブラックホール撮影支えた女性 天文学キャリアへの道

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天文学における今年最大の話題は、今年4月に発表になった日米欧などの国際共同研究グループによる巨大ブラックホールの撮影成功だろう。世界の8つの電波望遠鏡を連動させて撮影したこの「イベント・ホライズン・テレスコープ・プロジェクト」には、世界中の研究者が約200人参加した。その日本チーム代表・本間希樹さんが所長を務める国立天文台・水沢VLBI観測所のもと、撮影成功を支えた女性研究者・田崎文得さんに話を聞いた。

◇  ◇  ◇

ブラックホール撮影に貢献した国立天文台・水沢VLBI観測所長・本間希樹さんに、田崎さんへの取材を打診するメールを送ると、「子育てをしながら、データ解析でこのプロジェクトで活躍し、広報面でも多いに貢献してくれました。ぜひ取材を」という返事がすぐ届いた。

岩手県奥州市水沢の観測所を訪ねた。ふんわりと柔らかい雰囲気の田崎さんが階段を駆け下りてきた。

田崎さんの科学に関する最初の思い出は、幼い頃、母や祖母に連れられて散歩をしながら草花の名前を教わったときに遡る。天体も好きで、天体望遠鏡を買ってほしいと親にねだったこともあった。「『高額だからダメ。顕微鏡なら買ってあげる』と言われてあきらめたのですが、今考えれば顕微鏡だけでも買ってもらっておけばよかった」と笑う。

小学2年生の頃、友達が通っていたそろばん教室に週2日で通い始め、「10桁同士など、桁の大きい数字を使った掛け算や割り算がとにかく楽しくて」と語る。

小・中学校は、地元・千葉県茂原市にある公立校に進む。高校も地元の公立校に通い、常に成績はトップクラス。学問に対する憧れが強く、一浪して京都大学・理学部に進学する。最初は数学を志した。「でも、数学って高校まではパズルのように論理的ですが、大学に進むと、まるで哲学のような領域に入っていくんですよね」。そう感じた田崎さんは天文学や海洋地質学への転向を考え始めた。

せっかくなら一番遠くて見えにくい物を

その中で、天文学を選んだ理由は「せっかく調べるなら、一番遠くて見えにくい物を研究対象にしたい」「役に立つかどうかにかかわらず、興味のあるものを自由に学べそうなものに挑戦したい」という思いがあったから。

「役立つかどうか分からないことを研究するという、基礎研究のベースがあってこそ、役立つものの研究、つまり発展研究の幅が広がると思うんです。だからこそ、私は基礎的な研究が必須だと考えています」

大学4年生のとき、X線を使った「活動銀河中心核(異常に明るい銀河中心部の天体)の研究」を開始。その魅力にとりつかれ大学院へ。修士課程2年、博士課程3年を修了し、2014年3月に博士号を取得したが、その後待っていたのは、就職先探しの苦労だった。

就職先が見つからず、拾ってもらえたのは「最後の最後」

だが、残念ながら、当初狙っていた博士研究員(ポスドク)の枠は別の研究者の手に渡り、田崎さんは1日6時間勤務の研究支援員という職に就いた。しかし、半年後、その研究者が別の職場に移ったため、運良く田崎さんのポスドク就任が実現した。「本当に就職先がなくて、最後の最後でようやく拾ってもらえた、という感じでした」

田崎さんはもとからブラックホールそのものに興味があったわけではない。「もともと興味があったのはX線。星空というと、空に星が瞬いているという静かな印象がありますが、X線を使って宇宙を見ると、正反対の光景が広がります。温度の高いガスのある場所が明るく光る。超新星残骸が見えることもある。こんなふうに、とても活発な姿が見えてくるんです」と目を輝かせる。

国立天文台のプロジェクトではX線ではなく、電波を用いてのブラックホール撮影に挑戦することになった。その時点で、田崎さんは研究手段をX線から電波に転向することを迫られた。「X線でも、電波でも、新しい世界が見られることには変わりありません。そこは柔軟に対応しました」と振り返る。

世界中の科学者約200人とブラックホールの撮影に成功した瞬間

2017年、水沢VLBI観測所に移ってからも、ブラックホール撮影プロジェクトを進める日々が続いた。「当初、自分が在席している期間内にブラックホールの姿が見られるという確信はありませんでした」

しかし、2017年には天候的にいい条件下で観測することに成功。そのデータを活用して世界中の研究者と協力し、2018年6月にブラックホールの画像を得ることができたときは、「心底ほっとした」と言う。

ここで少し、ブラックホールの撮影はどのように行ったのかを解説してもらった。「ブラックホールが出している電波を受信し、そのデータを解析してブラックホールの画像を復元するという方法を取りました。世界中に散らばった4つのグループが別々にデータ解析を行い、出来上がった画像を確認した結果、無事、同じ画像が復元できました。その後もデータを補正するチームと画像化するチームが何度もやり取りをして、画像の正確性を高めていきました」

ブラックホールの撮影には成功したものの、プロジェクトが終了したわけではない。「いて座Aスターという天の川銀河の真ん中に位置するブラックホールを撮影する」「ブラックホールを動画で撮影する」「ブラックホールの静止画の解像度を向上させる」など課題は尽きない。「残念ながら、私のここでの任期は残り1年ですが、その後も、自由な研究を継続できる職場を得られるならばこのプロジェクトに関わり続けたいと思います」

夫は就職先の土地に一緒に移住してくれた

ここで、キャリアを振り返ってもらった。「これまで私が歩んできた環境では、女性は少数派でした。大学時代も同期10人のうち、女性は2人だけ。今いる観測所でも研究者約20人中、女性は2人です。気になるのは、助教、准教授、教授という任期のないポストに就く女性が限られているということ。求人情報では『男女共同参画の方針に基づき、業績が同じであれば女性を優先して採用する』と書かれていたり、女性限定の募集があったりと、ここ5年ほどは女性に対する追い風を感じてはいます」

「周囲を見渡すと、職場というよりも、社会の側に問題があるような気もします」と田崎さんは続けます。「女性研究者には夫のキャリアを優先し、自分の仕事を手放す方も少なくありません。社会的に見て、女性がキャリアに関して希望を通しにくいという実態があるかもしれません」

その点で自分はラッキーだった、と田崎さん。京都市内の民間企業に就職していた京大時代の同級生と、博士号取得前に入籍。2年後に出産。東京都三鷹市の国立天文台への就職が決まると、夫は勤務先の東京支社に異動を申し出てくれたという。三鷹市在住時代は、都心への大変な通勤を避けるため、夫は勤務先の在宅勤務制度を活用。さらには、オフィスを持たず、全社員がリモートワークするというワークスタイルのベンチャー企業に転職し、田崎さんが岩手県奥州市に移った後も家族皆での生活を継続できている。「夫と今3歳の娘には常に本当に感謝しています」

「なぜだろう」を突き詰める

社会人になっても科学分野に興味を持ち続けるためにはどうすればいいか、と質問すると、こう答えてくれた。

「普段から『なぜだろう』という問いかけを大事にし、不思議に思ったことがあればとことん考えてみるということでしょうか。私は今、4歳の娘に『どうして?』と聞かれるたびに『どうしてだと思う?』と聞き返すようにしています。

そういえば、今朝はこんなことがありました。わが家の窓の、いつも同じ場所にガガンボが止まるのですが、それを見た娘が『どうしてガガンボはいつも同じ場所に止まるの?』と聞いてきました。私が『どうしてだと思う?』と聞き返したところ、『うーん、好きな匂いがするのかな』と娘は答えました。これって、彼女なりの『仮説』ですよね。自由研究のテーマにしてもいいぐらい、いい着眼点だと思います。大人になっても、この『自分なりの自由研究のテーマ』を考えることを楽しんでみればいいと思います」

田崎さんは続ける。

「そして、一つのことを突き詰めて考えること。もし途中で飽きてしまったら、私がX線から電波に転向したように、使うツールや、見る角度を少し変えるのもオススメです。考える中身ががらりと変わってまた違う面白さが見えてきます」

最後に、学校での理科の授業はやはり好きだったかと尋ねると、また田崎さんの目が輝き始めた。

「小学校5~6年生のときの担任の先生が理科が大好きな女性でした。血液について学ぶ授業では、わざわざ病院で採ってもらった自分の血液を教室に持参し、試験管に入れて『ほら、酸素を入れると鮮やかな赤に、二酸化炭素を入れると暗い赤になるでしょう?』って。

あと、メダカを取ってきて、教室で飼って卵をふ化させたことも。スーパーでアジを買ってきて解剖したり。そんなふうに、理科の楽しみ方を教えてくれた大人がそばにいたのは大きかったと思います」

「見たい、知りたい、考えたい」という純粋な好奇心を原動力に、ブラックホールの撮影という偉業を支えた田崎さん。次はいったい何に夢中になるのだろう。

田崎文得
研究者。水沢VLBI観測所特任研究員。千葉県生まれ。 京都大学大学院理学研究科で学位(博士)を取得。学生時代はX線衛星を使って、活動銀河核を研究。現在は、水沢VLBI観測所の特任研究員となり、国際プロジェクト 「イベント・ホライズン・テレスコープ」の一員としてデータ解析や広報業務の取りまとめを行っている。一児の母。

(取材・文 小田舞子=日経doors編集部、写真 柳原洋子)

[日経doors 2019年7月4日付の掲載記事を基に再構成]

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