うちの企業文化は「日常食としておいしいものにこだわること」と池田社長

――仕事を、マニュアル化して、機械化してと進めていくと、無味乾燥な店になったり、模倣店が出て来たりする心配はないでしょうか。

それが、ここまでマニュアル化を進めても、やはり人によって日によって微妙に出来は違うのです。その手作りの人間的な部分は大事にしたい。ただし、科学的に解決できるところはできるだけ解決する。いわば科学的職人の仕事として追求していきたい。

模倣店はこれまでにもいくつか出ています。店名までそっくりな店もありました。しかし、どこも撤退しています。仕入れと、仕組みの中にも、まねできない部分があるのでしょう。

うちにはうちの企業文化がある。そうした文化を残す会社にしていきたいものです。具体的には、「日常食としてのおいしいもの」というのにこだわっています。いつでも、価格の心配なく、たっぷりおいしいものが食べられるようにしておきたい。

――商品開発はそこから発想するのですね。

「もり」「かけ」は今340円という価格ですが、ほかに500円でミニ丼が付く「得セット」などをそろえているのは、その考え方からです。

――おいしく、たっぷり、安く。それは「ほっかほっか亭」の「のり弁当」に感動したときから続いている考え方なのでしょうね。価格設定のほか、味などにも、お客さんに合わせた部分というのはありますか。

たとえば、今、返しを少し甘く、少し薄くしてみています。なぜそうしたかというと、今のお客さんはそばをそばつゆにどっぷりつけちゃうんですね。江戸っ子なら下のところだけちょっとつけて食べるわけですが、そうして食べるとおいしいんですよと言っても、お客さんはそうしてくれない。なかには、どっぷりつけた上でぐるぐる回しちゃうお客さんもいる。

それならば、そうして食べても濃すぎないほうがいいだろうというわけです。ただし、まだ試験的にで、お客さんの反応をみているところです。

――ところで、千葉県にもお店が多いですが、先日の台風の際も店を閉めなかったとうかがっています。

今年の台風のときも、去年の北海道胆振東部地震のときも、東日本大震災のときも、水と電気さえあって、従業員の安全さえ確保できれば店は開けておくというのが基本です。そば粉は3、4日分は店にあるからできるのですが。

いや、経営的に見れば、そういうときは本当は閉めちゃった方が損が少ないんです。でも、店は存在自体が社会貢献だというのが私たちの考え方です。

いつでも店が開いていて、お客さんにおいしいものを食べて元気になってもらうのが私たちの仕事なんです。そして後日、「あのときありがとう」と言ってもらえた店があります。冥利に尽きることです。

池田智昭(いけだともあき)
1957年東京生まれ。80年明治大学文学部史学地理学科卒業。同年、持ち帰り弁当店「ほっかほっか亭」に友人と共同でフランチャイズ加盟して独立。84年「ほっかほっか亭」のFC本部であるほっかほっか亭に、東京事業部第一営業部スーパーバイザーとして入社。92年取締役営業本部長を皮切りに、取締役開発本部長、取締役FC本部長を歴任し、03年にほっかほっか亭を退社、同年トモス(後にゆで太郎システムに吸収合併)を設立し、代表取締役に就任。04年にゆで太郎システムを設立し、代表取締役に就任。94年に「ゆで太郎」1号店を出店した信越食品とマスターフランチャイズ契約を締結。以来、「ゆで太郎」のチェーン展開を手掛け、現在に至る

(香雪社 齋藤訓之)

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