鍋物・グラタン… アボカド、温かい料理にも好相性
「森のバター」ともいわれるアボカド。ねっとりとした食感とほんのりした甘みが特徴で、サラダだけでなく、ワサビ醤油(じょうゆ)の「刺し身」、マグロと一緒にご飯にのせたハワイ流海鮮丼などが知られるが、投稿サイトなどで新たなレシピが広がり、料理も多彩になっている。「アボカド鍋」もあるらしい。どんな食べ方があるのだろう。寒さが身にしみる冬も近づいてきた。温かなアボカド料理を探しにいった。
手掛かりを求めて、日本アボカド生産者協会(東京・文京)に問い合わせてみた。国産アボカドの栽培普及をめざす団体とあって様々な情報が集まっていそうだ。事務局の太田真二さんがアボカド料理の専門店がいくつもあることやアボカド料理研究家の存在などを教えてくれた。
早速、専門店をネット検索すると、複数の店がヒットするではないか。東京都千代田区の「アボカフェ」が「日本初のアボカド専門店」をうたっている。冬にぴったりの温かい料理を取材したいと伝えると、代表の宮城尚史さんが「鍋」「はさみ揚げ」などを挙げてくれた。アボカドの鍋とは初耳だ。量は1.5人前とのこと。他の料理も取材したかったので、食欲旺盛そうな20代の後輩記者らを誘ったが「すみません。別の取材がありまして」と2人ともつれない返事。そこで昼食を抜き、できるだけお腹(なか)をすかせて1人店に向かった。
店は、日本を代表する古書店街、神田神保町にあった。隠れたグルメの街でもある。書店が立ち並ぶ大通りから路地に入ると、小さなビルの入り口にアボカドの形をした看板が見つかった。メニューには前菜からデザート、ドリンクまで多種多様なアボカド料理が並ぶ。
席に着いてしばらくすると、鉄鍋に入った「アボカド塩レモン鍋」が運ばれてきた。たっぷりのスープにスライスしたアボカドと輪切りレモンにダイコンおろしがのっている。レンゲで下の方をすくってみると、豆腐やネギ、ハクサイ、エノキがいっぱいだ。アボカドもたくさん入っている。「鍋にはアボカド2分の1個分を入れています。レモンとの相性がいいんですよ」と宮城さん。ダイコンおろしの辛みとアボカドの甘さの組み合わせが絶妙でおいしい。みぞれ鍋風のさっぱりした味わいだ。アボカドは冷やして食べるものというイメージしかなかったが、鍋もいける。1.5人前を完食した。「はさみ揚げ」も後日改めて取材させてもらった。レンコンのシャキシャキ感とアボカドのトロリとしたクリーミーな食感の調和を楽しませてもらった。ちなみに「アボカド塩レモン鍋」は1485円、「はさみ揚げ」は935円だ。
アボカフェは、宮城さんが妻の香珠子さんと「健康に良くいろんな料理に使えるアボカドの魅力を伝えたい」と2007年に開いた。昼時や夜は若い人から年配の人まで様々な客で混み合うという。
東京以外にもアボカド料理店はある。鹿児島市の「アボカドキッチン アリンコ」。オーナー福島崇史さんの冬場のおすすめは「アボカドのアンチョビ焼き」(570円)。アボカドを半分に切って大きな種を取り除いたあとに残るくぼみに、アンチョビ(カタクチイワシ)とオリーブオイルを入れ、コショウを振りかけてオーブンで焼いた料理だ。果肉をアンチョビと混ぜると、甘さとしょっぱさが絡み合う。「鹿児島に多い芋焼酎にも合いますよ。ディップ(クリーム状ソース)などと違い、アボカドらしさが残る見た目も人気です」(福島さん)。酒のつまみにもなるメニューはほかにもありアボカド料理を注文する男性客も多いという。
アボカド料理研究家、緑川鮎香さんのおすすめの冬メニューは2つあった。
1つ目は「アボカド豚肉巻きバルサミコソース」だ。アボカドは加熱すると崩れやすいが、肉を巻くことで軟らかな食感を残せる。バルサミコソースであえると、ごちそう風に様変わりする。「牛肉でなくても豚肉で十分おいしい」といい、「油分の多いアボカドと肉を合わせる際には、脂身の少ない部位を選ぶのもコツ」と話す。
2つ目は「アボカドカップのグラタン」。実を半分に切り果実をくりぬいた皮を器として利用する。果肉を砕いてマヨネーズと合わせるだけで、即席ホワイトソースも作れる。「アボカドはいい意味で味に特徴がないんです。調味料次第でいろいろなものにアレンジできますよ」と、緑川さんは指摘する。
気になっていた食べごろの見分け方も聞いてみた。「指が吸い付くような弾力」との説明が多いが、判断が難しい。まだ熟していない果実をむいてしまった痛い経験がある。
緑川さんが挙げるポイントは4つ。(1)皮の色が黒っぽい(2)親指のハラが入る程度の弾力(3)全体の硬さが均一(4)へたの根元が緑色なのは鮮度がいい印――だそうだ。「硬いものでもフライにするとホクホクとなっておいしい。逆に軟らかいものはディップに」(緑川さん)。黒ずんだ部分は、取り除けばおいしく食べられるという。
シェフ、研究家の話を聞いたとなったら、試してみるしかない。温かアボカド料理に挑戦だ。スーパーでアボカド数個を買い込み、自宅でアボカドのグラタンとユッケ風を作ってみた。
グラタンは市販のソースを使わずアボカドをベースにした。ざるを使って大ぶりに切った果実を裏ごしして、すり下ろしたヤマイモとサトイモ、調味料を加えると薄緑色のソースができた。アボカドが苦手な小6の長女のため、ソース以外にはアボカドを使わなかった。ユッケは小さく角切りにしたアボカドに、マグロ、タコ、大葉、キュウリを一緒にしてゴマ油をあえて仕上げた。
夕食の時間。長女はユッケを一口食べるなり「おいしい!でもこの軟らかい緑のは何?」「グラタンの緑は何の色なの?」。アボカドと言えば警戒するかもしれない。「おいしい?よかった」とはぐらかす。完食を確認してアボカドと明かすと「そうなの?!おいしかったよ」と笑顔。辛みを足したユッケは夫にも好評。保育園児の次女だけは残念ながら食わず嫌い。ユッケのアボカドを箸で母の器にせっせと運び、グラタンはアボカドのソースをよけてチーズとエビだけを食べていた。
温かいアボカド料理、4人家族のうち3人を攻略できた。残るは次女だ。ギネス世界記録に「最も栄養価の高い果実」としても認定されているアボカド。ビタミンやミネラルが豊富で、健康や美容にもいいとされる。友人たちを招いて鍋パーティーもやってみたいが、それ以上に、子供たちに食べさせたいと願う親たちも少なくないだろう。戦いは続く。
(杉山麻衣子)
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