英国人は喜ばない? 「ダンディズム」の意外な真相

LEON

ボー・ブランメルとオスカー・ワイルドのダンディズムとは

── オリジナルのダンディズムを正しく学ぼうと思ったら、誰を参考にすると良いのでしょうか?

中野 「やはり、ボー・ブランメルです。時代は19世紀初頭。スーツの基本となる考え方を確立したと言われる人物です。彼のスタイル、言葉、態度、生き方はまさにダンディズムの源流です。その彼と、19世紀末のオスカー・ワイルドと比べてみると、ダンディズムの真髄がより理解できると思います。ブランメルは、きらびやかな当時の服装に対して、抑制の効いたスーツで反発しました。一方、オスカー・ワイルドは、黒スーツが原則とされる時代に、時代に逆行するようなロマンティックなスーツスタイルで反発しました。アプローチは違えど、そのイズムは両者共にダンディズムに基づきます」

── そうした人物は、現代の日本で見つけられますか?

中野 「あまり思いつかないですね。現代の日本では、今後も生まれ難い価値観だと思います。まず、装いに美学を持つ意識が薄れていますから。実際、ダンディがもはや死語になりつつあります。ちなみに海外では、既にダンディという言葉すら使われなくなっています。世界的に見ても、消えゆく価値観なのかもしれません」

── スーツを着ない人が、多数派になりつつありますからね。

中野 「多様性が重視される時代においては、ダンディズムの原則である”抵抗・反発する”対象となる絶対的な価値観がありません。ただし、スーツを着る絶対数が少なくなった結果、それでも着続けている人はダンディと言えますよね。時代の流れに反発しているわけですから」

── 著書にもありましたが、もはやダンディとは「遠きにありて思うもの」ってことですかね。

ボー・ブランメル
1778年、ロンドンン生まれ。本名はジョージ・ブライアン・ブランメル。通称の「ボー」とはフランス語で「beauty」と同じ意味。摂政時代のイギリスのファッションリーダーにして、摂政皇太子(ジョージ4世)の遊び友達。中世的な派手なファッションと決別し、今日的な洗練された男性ファッションの礎を築いた。社交界に帝王として君臨するも、放蕩生活によって多大な借財を負い、1816年に英国を逃れてフランスに渡る。後、極貧のうちに亡くなった。
オスカー・ワイルド
1854年アイルランドのダブリン生まれ。世紀末文学の代表的作家で、芸術のための芸術を提唱。才気あふれる作品を発表する一方、奇抜な服装や過激な発言で社交界でも注目を集め、アルフレッド・ダグラス卿との男色事件で有罪判決が下るなど、スキャンダラスな一生を送った。代表作に「幸福な王子」、「ドリアン・グレイの肖像」(小説)、「サロメ」(戯曲)など。1900年、梅毒による脳髄膜炎で亡くなる。葬儀は参加者が数人だけの、淋しい葬儀であった。

孤独を愛せない男はダンディではない

中野 「ブランメルのようなダンディズムはひとまず置いておくとして、ダンディズム的な考え方はビジネスや人間関係の構築に役立つこともあるんです。それが、ダンディであるために最も重要な、孤独を愛するということ。世の主流に反発するのですから、当然孤独は避けられません。ただし、人間が成長するためには孤独な時間は必要。孤独に過ごす中で自分と向き合うことで、自分の本質を理解することができます。自分の本当の姿がわかれば、どのような行動や発言、そして装いをすべきか自然とわかってきます」

── 最近は、お一人様がブームみたいですが。

中野 「でも、結局手にはスマホがあるでしょう? スマホを通して情報や人とつながっている状態は、孤独とは言えません。何も座禅を組めとは言いませんが(笑)、時にはバーに行ってひとりで考える時間を作ってみるのもいいのではないでしょうか。ただし、バーで葉巻をくゆらせただけで、ダンディになれるわけではありません。あくまで過程です」

── 他にダンディズムを身につけるとしたら、どんな方法がありますかね?

中野 「SNSをやらないとか(笑)。日々とりとめのないことをこまめに綴る男の人って、ダンディではないどころかカッコ良くないですよね。どこかミステリアスな方が、やっぱり魅力的。ブランメルもオスカー・ワイルドも、同時代の人には正しく理解されていなかったと思います。だからこそ、魅力的に映るのです」

── 最近バーに一人で行くのは、女性の方が多い気がしますが。

中野 「確かに! 最近の女性は男性よりもむしろダンディかも(笑)。これからダンディズムの系譜を継ぐのは、日本の女性かもしれませんね」

中野 香織(なかの・かおり)
エッセイスト、服飾史家。東京大学大学院修了。英国ケンブリッジ大学客員研究員、明治大学特任教授を歴任。新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載記事を執筆するほか講演、コンサルティングをおこなう。最新刊は『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』(吉川弘文館)、『フォーマルウェアの教科書(洋装・和装)』(共著 一般社団法人日本フォーマルウェア文化普及協会)。他に『紳士の名品50』、『モードとエロスと資本』、『ダンディズムの系譜 男が憧れた男たち』など。
HP/http://www.kaori-nakano.com/

取材・文/安岡 将文

LEON

[ウェブサイト『LEON.JP』2019年10月25日公開の記事を再構成]

SUITS OF THE YEAR 2020

新型コロナウイルスの影響で、2020年は初のフルCGで作成した会場でのバーチャル授賞式。
時代の節目に挑み、大切なメッセージを放つ5人を表彰する。

>> 詳細はこちら

SUITS OF THE YEAR 2020
Watch Special 2020
Fashion Flash
SUITS OF THE YEAR 2020
Watch Special 2020
Instagram