子育て中の保険 子供より母親優先、死亡保障は夫婦で
仕事や子育て、家事にてんてこ舞いで、日常を回すのに精いっぱい。苦手意識のあるお金や家計についてじっくり考える時間はなかなか取れない。数字やお金の話は読む気力が起きない。でも、「老後破産」という言葉を見聞きするとドキッとしてしまう――。そんな「お金ニガテさん」が安心して暮らせるように、ファイナンシャルプランナーでハートマネー代表の氏家祥美さんがまずやるべき固定費の見直し、中でも大きな差が出る放置している「保険」の見直しについて解説します。
固定費で手を付けやすいのは保険料
―― 貯蓄するために「固定費を見直してみよう」という話をよく聞きます。
・住居費(住宅ローンや家賃)
・通信費(携帯など)
・教育費(保育料、習い事含む)
・保険料(掛け捨てのもの)
・水道・光熱費
氏家祥美さん(以下、氏家) そうですね。固定費(毎月決まって出ていくお金)で、手を付けやすいのは通信費と保険料です。
―― 大きいのは住居費かなと思いますが……。
氏家 住宅ローンの組み換えは、ひと昔前は有効でしたが、近年は低金利が続いているので10年以内に購入した人にはいい提案はなかなか難しいですね。一方、賃貸住まいの人は、家賃の安い場所へ引っ越しする手がありますが、引っ越し費用がかかります。ということで、まずは保険料の話をしましょう。
―― むむむ、でも保険の見直しは、「お金ニガテさん」にはなかなかハードルが高い気がします(やや後ずさり)。
氏家 一度頑張って見直せば、その後、毎月の保険料が下がるので実は大きいのです。
―― 自動引き落としされていると、日常に溶け込んでいて、保険料を払っていることも忘れていたり……。
氏家 「入りっぱなし」という人は一度でいいから見直すことをおすすめします。最近は貯蓄性のよい保険はほとんど見られなくなっていますが、掛け捨ての医療保障や死亡保障については以前より保険料が下がってきています。保険を見直すことで保険料を安くできるかもしれません。掛け捨てで支払い金額は少なくても、自分に合った保障を選べる商品が出ています。
―― へー。そうなんですね。
氏家 固定費が下がるので頑張る価値はあります。「毎月保険料を支払い過ぎていて実は目先が苦しかった」なんて、なんだか本末転倒だと思いませんか。保障は必要最低限で、今を楽しみ、貯蓄したほうがいい気がしませんか。
また、子どもができて初めて保険について考える共働きカップルも多いと思います。すでに入っているけど、子どもが誕生後も本当にこの保障で大丈夫かなと見直す人もいるでしょう。
・目の前の仕事、家事・育児など「共働きの毎日」をこなすのに必死
・計算や数字が苦手 なるべく数字とは関わらず生きていきたいと思っている
・パートナーとお金についての会話をするのも面倒に感じている
・共働きゆえに「何とかなるんじゃないか」と思っているので家計は把握していない
・「子どもにいろいろな体験をさせたい」と思っているが、どれぐらいお金を使ってよいのかが分からず、たまに罪悪感を感じる
・「老後破産」という言葉を見ると動悸(どうき)が激しくなる気がする、でもすぐに忘れてしまう
子どもが何歳になるまで心配なのか
―― 共働き子育てカップルが必要な保障とはズバリなんでしょうか?
氏家 保障を考えるときには、まず自分たち夫婦の心配事を書き出してみることをおすすめします。
―― うーん、最大の心配事は「自分たちが突然死んだらどうしよう」でしょうか。
氏家 そうですよね。親である自分が死んでしまったときの「死亡保障」ですよね。では、自分が死んだときに、月いくらあればなんとか生活できるのか、その保障は子どもが何歳まで必要なのか。心配事を解決するための自分たちの基準を決めましょう。もちろん、高額の保障が一生続けば安心ですが、それでは支払う保険料も高額になってしまいます。自分が何歳のときに、子どもが自立できる年齢になるのか、ライフプランを見ながら考えるといいと思います。
子どもが自立すれば、親の死亡保障は不要?
―― 子どもが自力で何とか稼げる年齢になれば、自分が死んでもあまり困らないわけですよね。
氏家 そうです。子どもが自立すれば、親の死亡保障は不要と考えれば、死亡保障を、子どもが自立する年齢までの定期保障にすると、保険料は安くできます。例えば、ここ10年ぐらい人気の商品ですが、定期保険の一種に収入保障保険というものがあります。
60歳になるまで、65歳になるまで、10年以内など一定期間に死亡した場合にもらえる定期保険です。親が死んだ時点からその期間内に、毎月10万円というような形でもらえます。保険会社から見ると、一気にどんと2000万円などのまとまった保険金を支払う形ではないので、集めた保険料を上手に運用できる。つまり、保険料を安く抑えられるわけです。一方でもらうほうも、給与のように毎月定額をもらえるので暮らしの設計が立てやすいというメリットがあります。
その代わり、契約時に定めた期間を過ぎてから死亡してももらえません。60歳まで契約した人が61歳で死亡しても1円ももらえないのです。ずっと払った保険料が払い損になるので、掛け捨ては損な気がするかもしれませんが「子どもが自立できないうちに万が一自分が死んでしまったときのため」という本来の目的は果たせる。保険料を安く抑えた分を貯蓄に回せば問題ありません。ネットでもいいので、ちょっと調べてみれば、見直しの選択肢は色々出てくると思います。
―― なるほど。
氏家 あ、それと死亡保障は夫婦共に入ってください。
氏家 夫しか入ってない、というカップルが意外と多いのですが、子どもが小さければ小さいほど、母親が亡くなったときにはアウトソーシングが必要。共働きの場合、さらに母の収入もなくなります。ちなみに母親が何も保険に入っていないのに、子どもだけ共済に入っているという話もよく聞くのですが、子どもは医療費無料など日本の制度は充実していますから、子どもの保険よりは母親の保険を優先させてください。子どもの病気やけがに備えるのはもったいないと思います。
自転車事故で相手に損害を与えたり、子どもが誰かの自動車を傷つけたりすることに備えて子どもも共済に入っている、と言う人もいますが、これを個人賠償責任保険特約といいます。この特約は家族で誰か1人が特約をつけていたら、家族全員カバーされます。火災保険、地震保険、自動車保険など損保保険の特約として付けている人は多いはずなのでチェックしてみるといいと思います。
医療にもトレンドがある。入院日数は短くなっている
氏家 もうひとつの心配事は「自分が病気になったときにどうしよう」というものでしょう。「医療保障」は、日額5000円で1入院最大60日が最近の主流です。日額5000円で十分だと思います。日本は国の医療保険制度がしっかりしていて、医療費が高額になっても自己負担は9万円程度で済む高額療養費制度があります。個室の差額ベッド料などの負担が少しかかるかもしれないけれども、毎月保険料を払うことと比べてみてどうか、と考えてみましょう。
―― 入院日数はどうでしょうか。
氏家 医療にもトレンドがあります、昔は入院日数が長い傾向があったので、入院5日目から保障対象で、1入院180日まで支払う保障も普通でしたが、現在は医療が進歩して入院日数が短くなっています。
―― 他に、どのあたりがポイントになりますか?
氏家 注目すべきは、支払い方法ですね。一生払い続けるタイプは保険料は安い、一方で60歳までに支払い終えるものは保険料が高いです。老後支払うのが大変だと考えるのか、教育費がかかる現在や近い将来に支払うのが大変だと思うのか、それは人によっても異なります。
また、新しい商品が出るたびに解約して乗り換えるタイプの人は、保険料が低く抑えられる終身払いをおすすめしますが、いったん加入したら切り替えないタイプの人には、違うアドバイスをします。
―― 「お金ニガテさん」は切り替えないタイプの人が多いかと思いますが……。
氏家 その場合は、加入するのが30代なのか40代なのか、年代によっても異なります。30代なら、保険料がそこまで高くないので、切り替える予定がないなら60歳までの短期払いをおすすめします。一方、40代以降は保険料が高くなるので、短期払いの負担は大きくなります。ガン保障や死亡保障も付けたい人にはすべて短期払いは厳しいかもしれませんね。
何より大事なポイントは、見直した瞬間に自動積立定期預金へ
氏家 また、「遠い昔に入った保険を一度も見直してない」という人は、必要のない保険を付けていないか確認するといいでしょう。というのも昔は、あれこれ盛り込んだパッケージ売りが多かったのです。今からはもう入れないような貯蓄性の高い終身保障の部分だけ残して、ほかは解約して新しい商品に変える手もあります。
そして何より大事なことは、保険料を見直した瞬間に、自動積立定期預金に申し込みに行くこと。
―― え? どういうことでしょうか。
氏家 保険の見直しで浮いた額は、最初からなかったものとしてその金額だけ自動積立定期預金に移動させましょう。せっかく固定費を減らせても、すぐに取り分ける仕組みを作らないと普通の生活に紛れて変動費などで使ってしまいます。それまでと自由に使えるお金は変わらないのに、浮いたお金が知らない間にたまっていくというシナリオがベストです。
―― なるほど、忘れてはいけない最大のポイントですね!
ハートマネー代表。家計研究家。ファイナンシャルプランナー、キャリアコンサルタント。お金・仕事・時間のバランスの取れた幸福度の高い家計を追求する。『いちばんよくわかる! 結婚一年生のお金』(学研パブリッシング)、『35歳を過ぎた女性に贈る「これからのお金」のお作法』(秀和システム)など、著書多数。 監修した『北欧式 お金と経済がわかる本 12歳から考えたい9つのこと』(翔泳社)が2月に発売された。趣味は旅と世界の料理。
(取材・文 小林浩子=日経DUAL編集部)
[日経DUAL 2019年6月3日付の掲載記事を基に再構成]
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